学長式辞
2025/03/25
「がんばろうKOBE」が合言葉だった年から30年を迎えた2025年、本日ここにご来賓の皆様のご列席の下、2024年度学位記授与式を挙行できますことは、本学関係者にとりましてこの上ない喜びであり、ご出席の皆様には厚く御礼を申し上げます。
卒業の日を迎えられた学部卒業生・大学院修了生の皆さん、おめでとうございます。神戸学院大学を代表して、心よりお祝いを申し上げます。また、本日ご出席・ご参加いただいていますご家族ならびに関係者の皆様にもお祝いを申し上げると同時に、本日に至るまで今日を迎えた学生たちを支え続けてくださったこと、また大学への変わらぬご支援を賜りましたこと、深い感謝ならびに御礼の意を表したいと思います。
卒業生、修了生の皆さん。大学生活の中でいろいろなことがあったことと思います。楽しかったこと、悲しかったこと。うれしかったこと、悔しかったこと。愛したこと、憎んだこと。それらはこれからも、素敵な、あるいは、ほろ苦い思い出として残ると思います。しかし、過去それ自体を取り戻すことはできません。あなたたちの目の前にあるのは未来という時間だけです。未来に広がる歴史だけを見つめ、どうか過去の歴史におぼれたり、負けたりしないでください。
谷川俊太郎という詩人がいます。彼の作品にこんな一節があります。
生きているということ
いま生きているということ
それはミニスカート
それはプラネタリウム
それはヨハン・シュトラウス
それはピカソ
それはアルプス
すべての美しいものに出会うということ
そして
かくされた悪を注意深くこばむこと
この1年ほど「正義」と「悪」、「正しさ」と「誤り」の違いが不分明になったかに見えたことはなかったように思います。あなたたちが過ごした大学という空間は、本来この「正義」と「悪」、「真理」と「誤謬」の違いを追究するところとして生まれ、今でもそれが大学の本質です。あなたたちの大学での学びの中には、実はそうした追究も含まれていたということは、ぜひ忘れないでほしいと思います。
皆さんの社会への旅立ちにあたって、四つのことを伝えたいと思います。
一つ目。「3年」がんばる。
3年という長さには不思議な意味があることを知ってください。どんな仕事だったとしても、一つの仕事について、1年目は手探りです。2年目、少し慣れてきます。そして3年目に入ると、2年間の経験や知識をベースにして自らの工夫もできるようになってきます。それでようやく一つの仕事をマスターしたかなと思えるようになります。
もちろん、どうしても仕事がつらく、あるいは自分に合っていないと考えたときは、1年目、2年目でもやめて構いません。でも、その時でも、3年続けていなければ一つの仕事をマスターしていないということは意識しておいてほしいと思います。
二つ目。「『面倒くさい』と思ったら、重要だと思え」。
皆さんが、これから人生や職場で出会う様々な問題には、必ずしも答えが用意されているわけではありません。そうした問題を考えるとき、「面倒くさいな」と感じる問題ほど大事な問題だと思ってください。
大学における学びは必ず役に立ちます。ただそれが、目に見える形で現れる場合もあれば、そうではなく問題にぶつかった時にいろいろ考えるときの「目に見えない風」として役に立つこともあるのです。面倒くさいと感じるときほど、目を閉じ、風を聞いて、しっかり考えてください。
三つ目。「自分の中に『もう一人の自分』を持て」。
問題の解決のためには、しばしば「説得」という作業が必要になります。出す答えが自分一人のためだけではなく、家族や職場の同僚など他人にも影響することが多いからです。自分の思いのみを声高に主張することが説得なのではありません。
その時、自分を疑う「もう一人の自分」をどこかに常に置いておいてください。「説得」とは、自分と「自分の中にいるもう一人の自分」との何往復もの対話が生み出すということを覚えておいてください。
四つ目。あなたたちの中にある最もピュアな心、魂を大切に。
時代は変わるといいます。社会に出てからも、学ぶことは多くあり、新たな知識も身に着けていき、「考え方」も変わっていきます。むしろ、変わる方が健全です。でも、君たちの中にある心や魂は、それがピュアであればあるほど変わらないものです。いや、変えずに持ち続けてほしいと思います。
「一番素敵なことは偶然起きるの! それが人生!!」。
ディズニー・ピクサーのアニメーション映画『ファインディング・ドリ―』の主人公、ドリーのセリフです。
あなたたちの人生の旅に参考にすべき地図はありますが、その地図は目的地への経路を教えてはくれません。道のりは自分で決めてください。そしてその道で、チャンスが来た時につかめる自分を作りながら、「偶然」という名の町に出会える準備をし続けてください。
「人生で一番素敵なことは偶然起きる」。覚えておいてください。
おねがいをひとつだけ、させてください。今日からは同窓生として、神戸学院大学を応援してください。そして、社会に出て少し余裕ができたら、気が向いた時にぜひキャンパスを訪ねてください。私たち教職員にとって、あなたたちの成長した姿を見ることほど幸せなことはないのです。
あなたたちが社会で生き生きと活動している姿が見られることを心より期待しています。
最後に。
遠い世界に旅をしてください。暗い霧があるときは、空の風をもらって吹き飛ばしてください。今ここにいるあなたたち一人一人の力を体に感じて、2278(※)の道を、力の限り進んでください。そして、明日の世界を探し自らの手で切り開いてください。
卒業おめでとう。
2025年3月24日
神戸学院大学 学長 中村 恵
※2278は今年度の卒業生・修了生の総数です。