神戸学院大学

2024年度前期学位記授与式 学長式辞

2024/09/21

世界的な猛暑を記録し、9月下旬というのにいまだ真夏のような日々が続いている中、本日ここに、ご来賓の皆様のご列席の下、2024年度前期学位記授与式を挙行できますことは、本学関係者にとりましてこの上ない喜びであり、ご出席の皆様には厚く御礼を申し上げます。

本日卒業の日を迎えられた学部卒業生・大学院修了生の皆さん、おめでとうございます。神戸学院大学を代表して、心よりお祝いを申し上げます。また、本日ご出席・ご参加いただいていますご家族ならびに関係者の皆様にもお祝いを申し上げると同時に、本日に至るまで今日を迎えた学生たちを支え続けてくださったことに対して、深く感謝を申し上げます。

2020年2月、突然始まった新型コロナ感染症の拡大。その当時この不気味な感染症によってその年四月の入学式を挙行することはかないませんでした。学生にとっても、そして教員にとっても不慣れな遠隔授業が続く日々。「近くのコンビニに行く以外、下宿から一歩も外に出ていません。どうかなりそうです」。Zoomの画面越しに聞いた、一人の下宿学生からの悲痛な叫びをまざまざと思い出します。

新型コロナ禍。それさえなければ、もっと違った学生生活を送ることができたのに。そう思う人は多いかもしれません。しかし、過去の時間は取り戻すことができません。あなたたちの目の前にあるのは未来という時間だけです。未来に広がる歴史だけを見つめ、どうか過去の歴史には負けないでください。

前期卒業を迎える皆さんに、どのような声をかけるべきかいつも考えてきました。定められた修業年限を超える学生生活の中で、目標を見つけることの難しさ、単位が取れない苦しさ、悔しさも味わったのではないかと思います。そして、今後どうしよう、どうしたらいいという思い。多くの皆さんが抱えてきた悩みだと思います。きっといつも必死に考えていたのだと思います。

不思議なことですが、ヒトは考えているだけの時には、その考えは深まりません。考えるだけという状況から離れ、なにか目的を持った作業をしている時に、実は人はより深く考え、その答えに出会います。私自身の体験から言っても、そのように断言できます。

にもかかわらず、それでも行動を起こす前に何かしっかりと考えなければと、私自身を含めてヒトは思いがちです。違うのです。真に考えるためにこそ、ヒトはなにか行動を起こすべきなのです。その行動は、一見悩みとは関係のないことでも構わないのです。

悩みに答えを出すためにもヒトは「行動」すべきだ。私自身の自戒も込めて、皆さんの記憶にとどめてもらえると嬉しいです。

本日皆さんは社会に旅立つ日を迎えました。これまでの苦しみを克服してきた皆さんの努力に心からの敬意を表するとともに、旅立ちにあたってあと四つ伝えたいことがあります。

一つ目、「3年」がんばる。
3年という長さには不思議な意味があることを知ってください。どんな仕事だったとしても、一つの仕事について、1年目は手探りです。2年目、少し慣れてきます。そして3年目に入ると、2年間の経験や知識をベースにして自らの工夫もできるようになってきます。
それでようやく一つの仕事をマスターしたかなと思えるようになります。
もちろん、どうしても仕事がつらく、あるいは自分に合っていないと考えたときは、1年目、2年目でもやめて構いません。でも、その時でも、3年続けていなければ一つの仕事をマスターしていないということは意識しておいてほしいと思います。

二つ目。「面倒くさいな」と思ったら、それは重要だと思え。
皆さんが、これから人生で出会う様々な問題には、必ずしも答えが用意されているわけではありません。むしろ、答えがない問題を解くことが多いでしょう。そのとき、「面倒くさいな」と感じる問題ほど大事な問題だと思ってください。
大学で学んだことは必ず役に立ちます。直接役に立つ場合もあれば、問題にぶつかり考えるとき、「目に見えない風」として役に立つこともあります。面倒くさいと感じるときほど、目を閉じ、風を聞いて、しっかり考えてください。答えはその時に聞く風の中にあります。

三つ目。自分の中に「もう一人の自分」を持て。
これは二つ目と関連します。課題に答えを出す時に、しばしば「説得」という作業が必要になります。答えによって周囲の人々にも影響が及ぶことがあるからです。「説得」のためには「証拠」が必要です。自分の思いを声高に主張することが説得ではありません。「説得」とは、自分と「自分の中にいるもう一人の自分」との何往復もの対話なのだということを覚えておいてください。

四つ目。あなたたちのピュアな心、魂を大切に。
時代は変わるといいます。変わってゆく時代の中でも、実は自分の「心」「魂」は案外に変わりません。もちろん、「考え方」は変わっていきます。むしろ、変わる方が健全です。でも、今持っている君たちの中にある心や魂は、それがピュアであればあるほど変わらないものです。否、変えずに持ち続けてください。
あなたたちの人生の道は、あなたたち自身が切り開いていくものです。参考にすべきマップはありますが、そのマップは経路を教えてはくれません。道のりは自分で決めてください。そしてその道でぜひ「素敵な偶然」と出会ってください。「人生で一番素敵なことは偶然起こる」。覚えておいてください。

以上をあなたたち皆さんへの餞の言葉とします。

最後におねがいです。皆さんは、本日から約10万人の神戸学院大学同窓生の仲間入りをします。神戸学院大学にとって、同窓生はその宝であり、財産です。今日からはその同窓生の一人として、神戸学院大学を応援してください。そして少し余裕ができたら、ぜひキャンパスを訪ねてあなたたちの成長を聞かせてください。

私たち教職員にとって、あなたたちの成長した姿を見ることほど幸せなことはないのです。

改めて卒業おめでとう。君たちが社会で生き生きと活動している姿が見られることを心より期待しています。
                                               

2024年9月21日
      
 
神戸学院大学学長 中村 恵