水谷特命教授らの研究グループが、脳形成を助ける毛細血管の新たな機能を発見しました
2019/10/23
薬学研究科の水谷健一特命教授らの研究グループがこのほど、神経幹細胞と毛細血管が協調しながら脳の形成を調節する新たなメカニズムを発見しました。この研究は、脳がどのように形成されるのかといった重要な生命現象を明らかにしたばかりでなく、幹細胞を効率的に増殖させる技術につながる研究で、再生医療などへの応用が期待される画期的な成果であることから、米国の医学・生物学を扱うセル出版(Cell Press)が発行する学術雑誌「セル・リポーツ(Cell Reports)誌」のオンライン版に2019年10月29日(米国東部時間)に掲載されます。
水谷特命教授と、滋賀医科大学、愛知県医療療育総合センター、滋賀県立総合病院研究所、大阪大学、東京医科歯科大学の研究者らは、血管が蛍光タンパク質で光る遺伝子改変マウスを用い、母胎内で脳が作られる過程において、組織内の血管が時間的・空間的にどのように作られ、脳を形成する細胞である神経幹細胞(ニューロンを生み出す細胞)の働きとどのような関連性があるのかについて詳しく観察しました。
その結果、神経幹細胞の中でも最も幹細胞としての能力が高い細胞は、血管が作られない領域(無血管の領域)に存在し、この無血管の領域には血管の「管」は入らず血管先端細胞と呼ばれる特殊な毛細血管の「仮足(突起)」が神経幹細胞と接触することで、幹細胞の性質を極めて巧妙に調整していることを初めて明らかにしました。これらの結果から、組織に規則的に作られる毛細血管が、幹細胞の働きを助けるための細胞外環境を構築し、神経幹細胞が正常に増殖して正常な脳を作っていく上で決定的な役割を担うしくみを突き止めました。
水谷特命教授は「組織内に血管を精確に作って、これを適切に維持しないと、生体内の組織・臓器を一生涯保つことはできない。今後は、こうした特殊な毛細血管の環境が老化によってどのように破綻していくのかをさらに追求することで、脳の老化や病態を解明する技術に発展させたい」と話しています。
【発表雑誌】
掲載誌:Cell Reports(セル・リポーツ)
掲載日:米国東部時間2019年10月29日
タイトル(和訳):“Spatiotemporally dependent vascularization is differently utilized among neural progenitor subtypes during neocortical development.”
(時空間依存的な血管化は、大脳皮質発生過程における神経幹細胞と神経前駆細胞で区別して利用される)
著者名:鈴木(駒林)真理子、山西恵美子、渡部千里、岡村恵美、田畑秀典、岩井亮太、味岡逸樹、松下淳、木戸屋康浩、高倉伸幸、岡本正志、木下和夫、市橋正光、永田浩一、依馬正次、水谷健一
【研究グループ】
神戸学院大学、滋賀医科大学、愛知県医療療育総合センター、滋賀県立総合病院研究所、大阪大学、東京医科歯科大学からなる共同研究グループ