現代社会学部菊川講師による土曜公開講座「人間は植物になぜ癒されるのか」を開催しました
2023/11/09
10月28日ポートアイランド第1キャンパスで現代社会学部 現代社会学科の菊川裕幸講師による「人間は植物になぜ癒されるのか -園芸療法と農福連携の事例から-」を開催し、90人が参加しました。
今秋の土曜公開講座は第86回となり、前半は現代社会学部の教員、後半は薬学部の教員が各研究分野を「私たちのくらしと文化」という統一テーマに基づき、全6回の講義を行います。
今回の講座では、講義資料としてローズマリーが配布されました。
講義は、新型コロナウイルスの流行前後の「人と植物の関係性」について実施されたアンケート調査の紹介から始まりました。その結果から、リモートワークや外出の自粛により自宅で過ごす時間が増えたことで、人々の植物を育てることへの関心が高まり、植物を見て心を落ち着かせる行動が年代を問わず増加したことが明らかになりました。
次に、配布したローズマリーを実際に触って、嗅いでみるなどの体験をしました。
その後、今回のテーマである「人間は植物になぜ癒されるのか」という問いに対する説明を行いました。人類は長年、見通しがきくアフリカの草原で暮らしてきました。それは猛獣などの危険に遭遇した際、木々が鬱蒼と生い茂る森林よりも安全であったためだと考えられています。こうした背景から見通しの良い緑の景観が世界中の人々に好まれる理由の一つになったと考えられています。また、人が自然や生き物との結びつきを求める「バイオフィリア(生命愛)仮説」の説明もありました。
これまでの研究で、病室の窓から樹木が見えた方が、患者の手術後の入院日数や鎮痛剤使用量が少なくなることや、植物を眺めながら休息すると、職場でのストレスが軽減することなどが報告されています。日本では第二次世界大戦後、傷痍軍人の心身の回復に園芸が取り入れられ始めました。このように植物や自然を使用して心と体の状態を良くすることが広まっていき、「園芸療法」として定着しました。
園芸療法は、日常生活の動作を生かして行えること、植物が育っていく生命感や栽培における達成感などさまざまな利点があることを、事例を交えて紹介しました。
講義の終盤は、日本における農福連携の取り組みについて説明がありました。農福連携とは、就農者の確保や耕作放棄地の増加防止といった農業的課題と、障がい者の雇用創出、生きがい、リハビリなどの福祉的課題を合わせて解決するための取り組みです。近年、農福連携を行っている事業所の数は増加傾向にあり、農林水産省の調査によると農福連携に取り組む農業経営体の多くが「障がい者を受け入れて貴重な人材になった」「受け入れ前と比較して売り上げが向上した」と回答しています。障がい者への影響として、「体力がつき長時間働けるようになった」「表情が明るくなった」「工賃・賃金が増加した」などの回答が得られました。
ローズマリーの香りが漂う講義室で受講者はいつもと違う雰囲気を楽しみ、「ローズマリーを頂けてうれしい講座だった」、「家庭菜園をやって身体活動を高めたいと思った」などといった感想が寄せられました。
次回は、11月11日に薬学部の橋田 亨教授による「薬と正しく付き合って健康を手に入れる」です。