薬学部が「大学-医療連携特別講義」3回目で、がん薬物療法について学びました
2024/11/11
神戸市立医療センター中央市民病院との包括連携協定に基づく薬学部の「大学―医療連携特別講義(薬剤学特論Ⅰ)」3回目の授業が11月6日に開かれました。「がん薬物療法」をテーマに、昨年と同じく同病院から腫瘍内科医長の永井宏樹医師と吉(口の上は「土」ですが、以下「吉」と表記します)野新太郎薬剤師を講師に招きました。元同病院薬剤部長でもある橋田亨教授が今回も司会を務めました。
■神戸市立医療センター中央市民病院の永井医師と吉野薬剤師が最前線の報告
永井医師は呼吸器内科、がん薬物治療が専門です。がんの治療法は手術や放射線治療、薬物療法があり、症状を和らげる緩和治療を含めてチーム医療で患者を支えている前提を最初に強調しました。さらに、「医師の役割は治療方針の決定と全身管理。一方、薬剤師は薬物療法の安全と質の向上に寄与し、患者の使う薬の確認や準備、服薬サポートなどを行い、患者や家族から頼りにされる存在です」と職種による役割についての説明がありました。
永井医師は最近のがん治療薬として、従前から使われている細胞障害性抗がん薬、最近注目される分子標的薬、免疫療法に使われるチェックポイント阻害剤を示し、多剤併用により有効性が高まる一方で毒性も高まり、副作用への配慮が必要なことも指摘しました。同病院では、2004年からがん患者のために薬剤師による「ケモ(化学療法)副作用説明外来」を設け、治療スケジュールや副作用が出たときの対策など、患者指導にあたっているといいます。
服薬が患者任せとなる経口抗がん薬については薬剤師外来があり、採血と診察の間の空き時間を活用して薬剤師が服薬の注意点を患者に知らせるとの紹介もありました。薬の副作用で、悩ましい皮疹のひどいケースにはチームを組んで対応しているとのことでした。
■多職種連携でチーム医療
一方、「がん薬物療法認定薬剤師」、「緩和薬物療法認定薬剤師」などの資格を持つ吉野薬剤師は、がん薬物療法における薬剤師の役割と多職種連携の重要さについて語りました。
吉野薬剤師は、永井医師と同じく点滴化学療法の流れを示し、「レジメン」と呼ばれる抗がん薬、輸液、支持療法などを組み合わせた投与計画の事前登録によって管理が徹底されていることを説明し、施行(投薬開始)当日は医師の処方確定を受けて、正しいかどうかの処方監査を行い、問題がなければ無菌調製を実行すると述べました。
次に薬剤師の役割として、薬剤についての患者への説明を挙げました。永井医師から説明のあった「ケモ(化学療法)副作用説明外来」については、点滴初日に安心して治療を受けてもらうために、治療についての理解度の把握や副作用についての説明などを行うと述べました。点滴当日のベッドサイドでの患者指導でも患者に寄りそう姿勢の大切さが分かりました。
また、吉野薬剤師は、「緩和ケアチームの役割」にも触れ、薬剤師は治療薬の選択、投与経路や投与量の選択、副作用の確認などを行うと述べました。薬剤師による検査入力の支援、病院と保険薬局との連携の窓口になるなど、薬剤師の業務が多岐にわたることも理解できました。保険薬局で得られた患者に関する情報で、病院でも共有すべき点は「トレーシングレポート」として届くシステムになっていることも紹介してもらいました。
■学生は薬剤の副作用について質問
学生からは「免疫療法のチェックポイント阻害薬を使った場合、副作用はすぐ出ることもあるし、かなり日がたってから出ることもあると聞いています。副作用はどのくらいの期間、注意しないといけないのでしょうか」と質問がありました。永井医師は「とてもいい質問です。いつまで影響を見たらいいか、期限はないとも言われます。しかし、目安として最低半年は副作用を警戒する必要があります」と答えました。吉野薬剤師は「(副作用と薬剤の関連については)チェックポイント阻害剤の使用を見落とさないように、使用している患者には(電子カルテなどに)特定のアイコンを表示するようにしています」と薬剤師の立場から付け加えました。
■治せない患者とどう向き合うか
最後に橋田教授が「チェックポイント阻害薬の優れた点は理解できました。しかし、抗がん剤を使っても、がんが再発したり、最後は死亡したりしてしまう多くの患者に対しては腫瘍内科を専門とする医師としての関わり方はどうですか」と、永井医師に尋ねました。答えにくい質問でしたが、永井医師は「薬が効いている間は患者さんも前向きになってくれますが、効かなくなってくると当然落胆されます。ステージ4で難治の方には『治りません』と、(きつくても)あらかじめ話します。最終的な結末は避けられないのなら、それまでの時間をどれだけ有意義に使ってもらうかが大事です。少しでもがんの痛みを減らし、メンタルを支えながら患者と向き合うかを考えます」と答えました。
一方、吉野薬剤師は「治すことはできなくても、患者さんの話を聞くことができます。医師に対しては言いにくいこともあるでしょうから、薬剤師は医師と患者をつなぐ役割が大事だと思います」と答えました。