法学部主催の文化相互理解シンポジウムを開催しました
2023/06/09
法学部主催の文化相互理解シンポジウムが6月8日、ポートアイランド第1キャンパスB108教室にて開催されました。【企画・進行・文責・岩田将幸教授】
第24回目を迎える今回は、朝日新聞記者の藤原学思さんをお招きし、「陰謀論が広まる社会的背景 ―Qアノンの取材を通して―」というテーマにてご講演いただきました。また、名古屋大学大学院情報学研究科准教授の井原伸浩さんを討論者としてお招きしました。
ご講演いただいた藤原さんは、昨年『Qを追う:陰謀論集団の正体』(朝日新聞出版 2022年9月)を上梓されたばかりです。藤原さんは、Qアノンを題材に、にわかには信じがたいデマがインターネットの世界で真実へと転化され、拡散されて行き、信仰されるようになったのかを説明されました。仮想世界で誕生した「Q」なる人物は、米国は、裏で犯罪に手を染める悪徳に満ちた権力者やエリートらに支配されている(「ディープ・ステイト」)という、「もう一つの真実」を提起します。Qはやがてカルト的に崇拝されるようになり、Qの発信する「もう一つの真実」がときに他の政治的集団の主張と結びつくことで、いわゆる陰謀論が米国社会で急速にはびこることになりました。そして米国の民主主義の根幹を揺るがす政治的な事件が起きてしまいます(2021年1月のトランプ支持者らによる国議会議事堂襲撃事件。前年の大統領選挙で前職トランプはバイデン氏に敗北していた)。
藤原さんは、Qアノンのルーツが実は日本にも関わりがあることを明らかにされました。したがって、それは決して米国特有の現象ではなく、ゆえに日本も無縁ではないのです。同時に、Qアノン的な「もう一つの真実」を信奉するのは、決して特異な人々ではありません。われわれが日々接する情報やコミュニケーションのうちに陰謀論がはびこる素地は常に潜在し、誰もがその落とし穴(rabbit hole)にはまる可能性はあると藤原さんは説かれました。
藤原さんの基本講演後、討論者の井原さんや参加者との間で質疑応答が行われました。活発な議論に発展する中、話題は、フェイクニュース、情報の発信源となるプラットフォーム、ポピュリズム、政治家や国家によるプロパガンダへと、広がりを見せていきました。これらのディスカッションを通して、われわれが知らぬ間に操作され、他者への理解や共感の契機が失われ、社会が分断されてしまうことの危険性について認識を新たにし、自らを振り返る機会を得ることができました。
藤原さんは、上述の著作で評判の高まる多忙な中、ご講演を引き受けて下さいました。同シンポジウムには、学部の垣根を超え、数多くの学生や教職員が参加しました。参加した方々からは大きな反響があり、盛況と好評のうちに終えることができました。