経営学部の柳准教授の授業で神戸市文化スポーツ局長の特別講義がありました
2025/01/09
経営学部の柳久恒准教授が担当する「スポーツマーケティング論Ⅱ」と「スポーツツーリズム論」の授業で1月7日、神戸市文化スポーツ局の檀特竜王局長(スポーツ担当)による特別講義がありました。3、4年次生の約30人がそれぞれ受講しました。
■パラ陸上の世界選手権開催の舞台裏
檀特局長は、2024年5月17日~同25日、神戸総合運動公園ユニバー記念競技場で開催された「KOBE2024世界パラ陸上競技選手権大会」(パラ陸上の世界選手権)の運営を担当した神戸2024世界パラ陸上競技選手権大会組織委員会の事務局長を務めました。この経験から檀特局長は「スポーツマーケティング論Ⅱ」で、1989年のフェスピック神戸大会以来、神戸市が中心となって開催していなかった国際スポーツ大会を運営することの困難さや喜び、得られた成果について紹介しました。
大会は開催理念として「つなげる パラリンピックムーブメントの継承とパラスポーツの振興/ひろげる 国際親善の促進/すすめる インクルーシブな社会の実現」を掲げました。104カ国・地域から、さまざまな障がいのある2000人近い選手と競技役員、1567人のボランティアが参加。8万4004人が観戦し、世界新記録も21種目で生まれました。
主催は国際パラリンピック委員会(IPC)で、担当機関は世界パラ陸上競技連盟(WPA)。運営は神戸市などで組織する大会の組織委員会(会長は元マラソン選手でレース解説者の増田明美さん)が担ったものの、重要事項については単独で判断する訳にはいかず、海外との時差もあってWPAの了承を得るのには時間がかかることも多かったといいます。
■運営の経験を次の国際大会に生かす
運営は財務、総務など32のFA(ファンクショナル・エリア)ごとに業務が分かれており、縦割り組織の弱点を「セントラルマネジメント」が調整役として機能しました。しかし、セクショナリズムの弊害も多数あり、「スポンサーブースの場所を決めるのも、安全対策、選手の動線確保など、FAの観点の違いから生じる緻密な調整が必要」だったようです。また、招致が決まって間もない頃は、2019年に日本で開かれたラグビーワールドカップの組織員会に派遣された神戸市職員にインタビューして国際イベント運営の知識やノウハウを引き継ぎ、マニュアル化したことも、世界パラ陸上の準備に大きな力になったといい、「今度は世界パラ陸上で得た私たちの経験を次の国際大会に生かせるはずです」と檀特局長は期待を込めて語りました。
大会の認知度を補うために力を発揮したのは市職員のアイデアから生まれた「1万人プロジェクト(目指せ、1日1万人集客)」。経営学部の辻幸恵教授ゼミによる「スタンプラリー」の企画が採用されたほか、大学生や外国人留学生らのアイデアを生かしたオリジナル弁当などの競技場内での販売、マラソンランナーでインフルエンサーの三津家貴也さんによるYouTube動画の発信などのプロジェクトを次々に展開し、集客に貢献したといいます。
■「ONEクラス応援制度」は中小企業団体との会話から
また、大会を支えるスポンサー集めも大手広告代理店が使えず、職員が営業に東奔西走。本来のスポンサー枠にはなかった「ONEクラス応援制度」は市内の中小企業団体と職員の会話から生まれたアイデアが実現したものだといいます。「1口5万円で子どもたちの観戦を支援しませんか」と呼びかけると188社(人)が協力してくれて財政的にもプラスとなりました。「児童や生徒をクラス単位で50人招待する場合、交通費が1人1000円かかると仮定して5万円かかるから」という発想でした。おかげで小・中・高校生の「学校観戦」は2万8000人以上にのぼり、「子どもたちの声援が何よりも力になったと選手の皆さんに喜ばれました」と檀特局長は表情をゆるめました。
このほか、2023年パリ大会の視察で学んだ「音響と映像効果で大会を盛り上げる」手法が神戸大会で生かされたこと、パラアスリートの前川楓さん(女子100メートルと女子走り幅跳びの義足のクラスで銅メダル)が創作した絵本の読み聞かせ会を神戸で開催してくれたこと、神戸市社会科作品展で児童が神戸大会を観戦したことを研究テーマに取り上げて「ぼくの想像をはるかに超える可能性の祭典だった」と書いてくれたことなど、成果として多数の事例が紹介されました。
■増田明美さん「詳しすぎるレース解説」の秘密は
開催期間を通じ、LOCの増田明美会長が無報酬で競技場に早朝から競技終了まで滞在し、競技役員やボランティアに激励の声をかけ続けてくれたことが現場の雰囲気を良くしたといいます。「増田会長は人と話すと必ずメモを取っておられました。これがあの『詳しすぎるレース解説』の秘密じゃないでしょうか」というのが間近で接した感想だとか。多くの有名人が増田さんに会うために競技場を訪れ、表彰式でプレゼンターを務めてくれたのも、「増田明美会長」がもたらした成果でした。大会の経済波及効果は52億円を超えるとの試算があり、大会は成功したと評価されています。
また、「スポーツツーリズム論」の特別講義は、自身もよく出走している全国各地のマラソンの事例を紹介し、「神戸マラソン」や「宮里藍 サントリーレディースオープン」などのスポーツイベント、ヴィッセル神戸、神戸ストークス、コベルコ神戸スティーラーズなどのトップスポーツチーム、4月に開業するジーライオンアリーナ神戸など魅力あるスポーツ資源が地域のツーリズムを活性化させ、スポーツによる交流人口を増やし、経済効果も生み出すことが期待されるとの内容でした。