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医師と薬剤師による共同研究
室井:2022年11月、病院内の「臨床研究推進センター」に「臨床薬学研究部」を新設できたのも、貴学との連携を続けてきたからこそです。従来の私たちの研究は、例えば服薬状況や投与後の検査値などを調べ、有用性を確認するケースが多かったんです。しかし貴学にある最新の測定機器を用いて、先生方から解析方法を学ぶことで、薬物が体内に投与されてから排泄されるまでの過程を示す薬物動態を追跡するなど、より精密な研究が可能となっています。
杉岡:薬剤師が研究者として公に位置づけられたことが、病院の中でも非常に大きいと思います。病院における臨床研究のほとんどは、医師が主導して進められていて、薬剤師は関わるにしても研究補助といったポジションでした。しかし薬剤師が主体となり、薬剤に主眼を置いた臨床研究を進めていけるようになれば、今後の医療の発展にもつながります。
室井:協定締結時の薬剤部長であり、2021年に臨床研究推進センター長となった橋田亨先生が長年、働きかけてきた結果ですが、連携を通じて薬剤師が研究成果を示すことができたことも大きいと思います。
杉岡:連携教員でもある元薬学部の入江慶講師らが手がけた、レムデシビルの研究もそうですね。
室井:もともとエボラウイルスの治療薬として開発されたレムデシビルは、海外のデータから特例承認として日本でも使えるようになったCOVID-19の治療薬です。体内でどう代謝され効いているかのデータが少なかったのですが、貴学の協力のおかげで腎機能が悪くても投与量を減らさず使用するべきだという論文発表に至ることができました。また、当院の薬剤師は、救急の最前線での患者さんのケアや処方提案もしている背景があり、医師や看護師も協力してくれたおかげで測定が可能となりました。まさに大学と病院間、病院内での連携がすべて上手くいった結果です。
杉岡:コロナ禍という大変な状況の中で実践できたことも非常に価値があるように思います。本学の薬学部は、薬物動態の解析や代謝構造の遺伝子解析など、さまざまな専門をもつ研究者がいます。実際の患者さんのサンプルから出てきたデータを、さらなる専門的な解析によって貢献したいというのが私たちの思いです。
室井:より患者さんの個別化治療に向けた処方提案をしていくうえで、いろいろな専門の先生方と研究を進めて精密化していくことができるのもありがたいです。今までは、副作用について調べるにしても、カルテや患者さんの病歴を見て「どう回避していくか」を考えるだけでした。でも、連携によって、最新の知識やスキルを持たれた先生方にご指導いただけるようになり、薬が体の中でどういう動きをしているのか、この薬は遺伝子的に効くのかといったことが調べられるようになりました。これは一般的な病院では、なかなかできないことです。貴学の先生方にも臨床薬学研究部のメンバーに入っていただいていますが、チーム会議を続け、さまざまな研究プロジェクトが固まりつつあります。
杉岡:医療はエビデンス(証拠)の積み重ねで成り立ちます。しかし処方箋を見て調剤をする薬剤師は、過去のエビデンスを調べて適正化する利用者でしかありませんでした。エビデンスがなかった場合、それを創生できるのが真の医療人であるはずです。医療連携委員会による講演会の初回テーマを「エビデンスを創生できる薬剤師」としたように、連携によって今まで利用するしかできなかったエビデンスを自分たちでつくることができるようになりました。これはとても意義深いことです。
室井:臨床現場で活躍しながら研究者でもある医師は多くいますが、薬剤師では稀少です。医師は研究者として文部科学省の科学研究費助成の申請ができますが、公的に認められなければ薬剤師にそれは叶いません。臨床薬学研究部を新設し、薬剤師を研究者として承認できるようにしたおかげで、私たちも科学研究費助成の申請ができるようになりました。
神戸学院大学との連携の成果で、
臨床薬学研究部を新設
兼任・神戸市立医療センター中央市民病院
院長補佐・臨床研究推進センター長
橋田 亨さん