Topic01
マラソンランナーを応援する、
チーズを使ったレシピ
南:2015年から始まったマラソンレシピの取り組みも、今年で10年目を迎えました。私が担当させてもらうようになったのは、赴任してきた2021年からなので、最初にこのプロジェクトがどのようにして始まったのかを、立ち上げから関わっておられる六甲バターの黒田さんにお話しいただければと思います。
黒田:神戸で初めての大規模な市民マラソンが2010年に始まるということで、私たち六甲バターは、第1回目の「神戸マラソン」からスポンサーをさせていただくことになりました。企業として経済的な支援をするだけでなく、やはり食で直接、ランナーの方々のお役に立ちたい。そこでまず弊社の商品である鉄分入りのベビーチーズをお配りしはじめたんです。
南:チーズは手軽に食べられて、非常に栄養価の高い食品ですからね。たんぱく質も豊富でカルシウムも含まれているので、ランナーから喜ばれそうです。
黒田:体内で酸素を運ぶのに大事な血中ヘモグロビンは、たんぱく質と鉄分からできているそうなので、マラソンのような有酸素運動をする方にも最適だろうと考えました。その際、当時の栄養学部長だった池田(清和)先生に、専門家の観点からご意見をいただき、それを機に神戸学院大学さんとのご縁ができたんですね。この縁を生かさないのはもったいないと思い、管理栄養士をめざす学生の皆さんにご協力いただき、チーズを使ったレシピでランナーの方々の健康に貢献できればとご相談して、快諾していただいたのがはじまりです。
南:チーズはとても使い勝手のいい食材です。さまざまな料理に加えて工夫することで、運動時の栄養摂取に有効ですね。チーズの活用法を皆さんに知っていただく機会にもされたわけですね。
黒田:レシピブックに掲載するメニューを選ぶにあたり、一次審査は大学の先生方にしていただき、二次審査で我々もレシピを拝見し、最終審査で8~10案を選んでいます。だから毎年、直接お会いしている学生さんは8~10人だけなのですが、10年間で1,000人近い方に関わっていただいていますよね。応募してくださったレシピ数は相当な数です。一生懸命考えていただいたことに感謝申し上げます。
「たんぱくもりもりピリ辛チーズ豆乳鍋」
南:現在は90人ほどの管理栄養学専攻の3年生の学生全員に、おにぎりと料理(デザートを含む)のレシピをそれぞれ考えてもらっているので、毎年180種類ぐらいのレシピが出てきているんですよね。私が授業のなかで担当させてもらうことになったのは、2021年の道行さんの代からで今回が4年目です。それぞれ考えられたレシピを紹介していただけたらと思います。
道行:私がつくったのは、「たんぱくもりもりピリ辛チーズ豆乳鍋」というレシピです。どんなものならマラソンをしている方々に喜んでいただけるか、最初はすごく悩んだんですけれども、私自身、運動をして疲れたときに、なぜか辛いものが食べたくなるなと気づいて。たんぱく質をより多く摂れるよう、当時流行っていた豆乳鍋にしてみました。コチュジャンや味噌などを混ぜながら自宅で実験的につくってみたところ、思いのほかおいしくできたんです。
「たんぱくもりもりピリ辛チーズ豆乳鍋」
南:私にとっても初めての経験だったので、あれを入れたらおいしいんじゃないか、これを入れたら見栄えが良くなるんじゃないかと、いろいろつくってもらった思い出があります。
「しいたけチーズの一口おにぎり」
道行:南先生に相談しながら試行錯誤しました。お鍋って家庭的な料理なので、はじめはアサリを入れていなかったんですけど、先生のご助言で加えたら旨味が増したと思います。あとチーズは最初、大きいスライスチーズだけだったんですけど、ベビーチーズを入れることによって、具材としてもより楽しめるようなお鍋に仕上げました。味に関しては、最初に調合したものが一番おいしかったので、何を調合したっけと思い出しながら味を近づけていったのが印象に残っていますね(笑)。実際、私自身も「神戸マラソン」に参加させていただき、帰りにこれが食べられたらうれしいなという一品になりました。
南:自分はつくらないのに好き勝手に提案していたので、よくやっていただいたと思います(笑)。その翌年、2022年が藤田さんですよね。
藤田:私は「しいたけチーズの一口おにぎり」という料理のレシピをつくりました。最初にチーズといえばカルシウムだと考え、学部の授業で「カルシウムはビタミンDと一緒に摂取すると効率的に吸収できる」と習ったことを思い出し、ビタミンDを多く含むしいたけに注目しました。それで手軽に食べられるものがいいと、一口サイズのおにぎりにしようと思い、南先生に相談していくなかで、しいたけを丸ごと1個使って傘の部分で蓋をする形になったんです。
「チーズと枝豆のオムにぎり」
南:どの大きさが最適か考え、何度かつくり直してもらいましたよね。おにぎりの形も、少し大きくしたり小さくしたり、いろいろ試してもらって。結果、うまい具合にできたなと思います。そしてさらに翌年、2023年が光武さんですね。
光武:私が考案したのは「チーズと枝豆のオムにぎり」という料理のレシピです。私も手軽に食べられるおにぎりにしようと考え、好きだという人が多いオムライスをテーマにしました。マラソン選手にとって大切なたんぱく質やカルシウムを増やそうと、チーズはもちろん枝豆や卵も加えて、栄養価計算も行いながら構成しました。
南:パッと見たときに、卵とチーズの黄色と、ケチャップライスの赤と、枝豆の緑で食欲をそそる鮮やかさがありますよね。見た目はとても大事です。藤田さんのものと同じく、マラソン時にもパクっと栄養補給ができそうですし、道行さんのレシピは走ったあとをイメージされていますが、トレーニングを積んでいるときの食事など、皆さんいろんなパターンを想定してくださっている。さらにマラソンをテーマに置きつつも、食欲が進まないお年寄りのたんぱく質やビタミン補給にも活用できるレシピにもなっています。
当時の「マラソンレシピ」の審査基準は、栄養的にランナーに適当であると考えられること、家庭で手軽につくれること、本学部の学生ならではの工夫やアイデアが詰まっていることの3つでした。ランナーの方々には、大会当日だけでなく、練習を積む過程でも体づくりやパフォーマンス向上のための食事が大切です。特化したレシピを考えたことで、運動栄養に関する知識も深まったと思います。