フロントライン
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データサイエンスが必要とされる
社会的状況
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小川:データサイエンスはデータを分析するだけではなく、分析結果をどのように情報として役立てていくかが目的になる分野だと思います。これまで辻先生は学生らとミクロの立場からマーケティング活動をされていますし、石賀先生は長らく実務家として日本のマクロ金融の動向をご覧になってこられました。齋藤先生は、データサイエンスの取り組みを神戸市など自治体ともされています。それぞれのお立場から、データサイエンスがどう必要となってきたのかをお話しください。まずは石賀先生、データを扱うことの必要性を金融の世界ではどう捉えているのでしょうか。
石賀:もともと金融政策は統計をベースに決定していくものですが、近年は消費行動なども多岐にわたっています。色々なデータを加味しながら政策の精度を上げていくという観点からも、データサイエンスは非常に重要なファクターの一つです。近頃、FinTech※(フィンテック)という言葉をよく耳にするようになりましたが、金融が情報通信業と融合する形で高度化する動きも出てきていて、マクロ的な部分でもミクロに近い部分でも、データサイエンスが重視されてきています。
※金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語
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小川:2000年代初頭に、「NTTドコモ」が始めたクレジット決済サービスiDについて、当時は通信会社が金融事業に参入することは画期的なことといわれていたのですが、今ではPayPayなどのモバイルのQR決済サービスが日常的に使われています。通信業界や金融業界といった垣根がなくなり、対消費者・対市場という世界になっているように感じます。辻先生、マーケティングの観点からはいかがでしょうか。
辻:もともとマーケティングは、何らかの工夫をしてモノを売りましょうというところから始まっていますが、今は消費者が賢く合理的になって、本当に必要なものしか買わなくなってきました。そうなると要不要の区別をデータから読み取らなければならない。この商品はどこに位置するのかというポジショニングや、誰が買ってくれるのかというターゲティングは以前から行われていて、商売をするうえでデータサイエンス的な考え方はとても大切でしたが、今はもっとシビアです。誰に、いつ、どのタイミングで売るか、正確なデータがないとなかなか計画を立てられません。そのためのデータをいつどこでどう集めて使うか、マーケティング的にはデータの利活用がさらに重要になってくると思います。
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小川:齋藤先生、自治体や公的機関において、データサイエンスはどう使われていくのでしょうか。
齋藤:現在は国を含め、色々な自治体がスマートシティを推進しています。都市がもっているさまざまなデータを連携させることで、行政をよりスムーズに運営できないかと考えているわけです。そんななか、神戸市がデータをもとにした政策決定、エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング(EBPM)の方向を模索しているとのことで、2年前につくられたスマートシティ推進協議会の議長を任されました。今年の3月にはKOBEスマートシティ推進コンソーシアムを立ち上げ、運営委員長を務めています。現在、コンソーシアムには60社くらいの企業が集まり、どのようにデータを集め、どう連携させ、どういう価値を生みだすか、いくつかのプロジェクトを進めているところです。さまざまな課題に対し、データをもとに解決していくには、一つのデータだけではなく、互いに横連携したデータが必要になってきます。