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対談02

“専門を越えた学び”が得られる大学教育へ

社会が大きく変わる中、求められる人材像が変化し、それに応える大学教育もまた変化することが求められています。神戸学院大学の教育がこれからどのように変化、発展していくのか。佐藤前学長、中村学長の考えとは。

共通教育科目の充実とデータサイエンス教育で、学生の学びの幅を広げる

中村:例えばAIが進化していくと同時に、「将来なくなる職業」がよく話題に上がります。AIを含めた技術が日々進化しているのは間違いのないことですが、実際の社会における活用法を考えた場合、その技術をどのように使いこなしていくか、どのように応用していくか。それを考えるのは人間自身だと思うのです。

では、どのような人材が必要とされるようになっていくのかを考えた時、知的なレベルではより高いもの、といってもノーベル賞のような次元のことではなく、普通の人たちが仕事をしていく上で、必要とされる知識、技量などが、より高度に求められていくだろうと思います。

それと同時に、阪神・淡路大震災、東日本大震災といった一連の震災をきっかけに、一つの専門知識だけでは大規模な災害や変化には対応できないということに、みなが気づき始めました。すべての専門を完璧に勉強することはできませんが、それでも、他の専門の基本を踏まえた上で処理するのか、全く知らずに処理するのかでは、仕事の上でも、教育の場においても、結果が大きく異なる、ということに、今後ますますなっていくでしょう。

大学という場所が複数の専門学部で構成されているという基本は変わりませんが、その枠組みをもう少し緩くし、他の専門分野も学べる仕組み作りが必要になってくるのではないかと考えています。

例えば本学では、医療・保健・福祉系の4学部6学科が合同で運営するIPE(専門職連携教育)というプログラムに取り組んでいますが、このような他分野と連携した学びがこれからますます必要になってくるであろうと思います。

そのために大学がすべきことは何か。専門教育を大切にしながらも、専門の枠を越えた学びを少しずつ推進していくことが必要だと思っています。

その一つがデータサイエンスです。データサイエンスを扱うには専門家が必要ですが、すべてを専門家に任せておけばいいのかというと、決してそうではないと思います。各人がデータサイエンティスト的なセンスを持ち、多少データの分析もできる上で仕事をするのか、勘で仕事をするのかでは、絶対的に結果が違ってくるでしょう。

そのためにもデータサイエンスは、一部の学生を対象にするのではなく、幅広い学部の学生が学べる仕組みを作ることが重要だと考えています。専門の幅を広げるのは大変なことなので、どこまで実現できるかは分かりませんが、少しでも幅を広げられれば効果はあると思っています。学生の中には、自分の専門以外にも興味を持っている人が大勢います。こういった学生の気持ちを上手く活性化させるということから始めるのも一つの手だと思っています。

最終的にはデータサイエンス教育をはじめ、さまざまな学びを学部横断的にできるようになるとよいのですが、最初に考えられるのは共通教育です。共通教育科目を今よりもう少し多く選択できるだけでも、学生にとっての学びの幅は、大きく広がるのではないかと思います。

佐藤:共通教育の幅を広げるということに関しては私も全く同感で、また課題だとも思っています。大学によっては共通教育科目を多く修得できるところもありますが、現状、本学の場合は、文系学部・学科でも24単位程度です。

また、横断的な学びという意味では、本学が取り組む、医療・福祉系のIPEは、まさにその価値を伝えています。IPEには、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、公認心理師、社会福祉士などを目指す学生たちが参加しています。学生らは、普段、国家試験合格に向けて一途に勉強している訳ですが、IPEでは互いの専門について語ったり、情報提供したり、非常に楽しそうに学び合っているのです。そのような姿を目の当たりにして、「学生たちはこのような学びを求めているのだ」ということを実感し、この取り組みを単位化するに至ったという経緯があります。

IPEのようなプログラムは他学部においてもニーズはあると思います。教員側は「専門教育が一番だ」と考えがちですが、学生のニーズとしてはもう少し緩やかに広く学びたいというのもあるのだと理解しています。

「学習者本位の教育」ということを文部科学省は掲げています。このような視点をはっきりさせたことは評価に値すると思っています。学生たちが大学4年間を過ごす中で「成果を得た、自分がやりたいことをできた」という実感を得ることが必要だと思います。やらされた感で終わってしまっては、せっかく学んだことも卒業後に生かすことができないのではないかと思うのです。

中村:佐藤先生が作られたIPEのように、専門を超えて学生が学べる仕組みをIPE以外にも増やしていきたいと考えています。その足がかりが、先ほど述べた「共通教育の使い方」になってくると思います。次の段階としては他学部の専門科目を選択できるようになることですが、これを実現するには非常にハードルは高いと思います。しかし、考え方の一つとしては排除せずに持っておきたいと思っています。

専門を超えて学べる仕組み作り、データサイエンス教育の土台作り。この二つが大きな課題です。

新旧学長が学生に伝えたい「成長実感」と「計画された偶然」とは

佐藤:私は学長在任中「学生が成長を実感できる大学」を標榜してきました。これは客観的に見て、学生に4年間もしくは6年間に成長してもらうことは必須として、学生本人が主体的に取り組んできたことで、卒業時に、「自分がやってきたことは間違いではなかった」と、あるいは、「神戸学院での学びで自分が思っていた以上に成長できた」と実感することが大切だ、という意味です。そういった実感があれば、次のステップへの自信になりますし、自己肯定感も得られます。そして自分自身で考えて行動する、チャレンジしていくということにつながっていくと思います。その学生自身の「成長実感」が、延いては「神戸学院大学の教育成果」にもなると考えています。

私は、大学での教育を「」づけで「教育」と呼んでいます。いわゆる正課教育は縦軸で、正課教育外のさまざまな活動も広い意味で「教育」と呼び、これが横軸です。先ほどからお話している、学部間を超えたIPEや共通教育も横軸に入ると思います。ほかにも、国際交流体験、ボランティア活動、文化系・体育会系の課外活動。そして本学の強みである、学生参加の社会連携活動、社会貢献活動なども含まれます。このようなさまざまな活動に参加し、多様な人たちとコミュニケーションを取りながら目標を持って行動していくことで得られるものが多くあります。大学での「教育」は縦軸と横軸の交わりである、そしてその対角線上に成長があると考えています。

実は教員も事務職員も横軸の「教育」には大きく関わっています。それは学生とのコミュニケーションの取り方ひとつで、学生が変わってくるからです。例えば、職員が窓口でどのように対応するか、その対応を見て学生は学習します。職員が適切な対応をすることで、学生は「自分は多くの人に支えられながら学習の場にいるのだ」ということを実感します。そういう意味では、キャンパス内、キャンパス外も「教育」の場になっていると考えています。

中村:佐藤先生のおっしゃる「学生の成長実感」は非常に大切なことだと思います。私の場合、「教育スローガン」というニュアンスとは少し異なるかもしれませんが、授業内で学生たちによく伝えている言葉があり、本年度の新入生にも入学式式辞で贈った言葉があります。
それは、「いちばん素敵なことは偶然起きるの。それが人生」というフレーズです。これは、『ファインディング・ドリー』というディズニー映画のドリーの台詞のひとつです。実はこれにはとても深い意味があるのです。キャリア心理学の中に「Planned Happenstance(プランド・ハップンスタンス)」=「計画された偶然」という言葉がありますが、明らかにそれを踏まえてのセリフだと解釈しています。
つまり「その偶然はまったくの無作為の偶然ではなく、準備期間があったからこそ、その偶然が起きた」という考え方です。

「計画された偶然」というといかにも学問的になるので、「素敵なことは偶然起きるの」というドリーの言葉から何かを感じ取ってもらい、新入生のみなさんには、その偶然を作るための努力をぜひこのキャンパスでして欲しいと思っています。

真面目な学生ほど一生懸命努力して、ともすれば堅苦しい準備の仕方をしてしまいがちです。そうすると一生懸命努力しているのに、なかなか偶然に出合えないということにもなりかねません。本当に「偶然に起きるものだ」と思っていると、もう少し自由に学生生活を送ることができると思います。ただし、準備はしないといけません。好きな英語をやってみる、データサイエンスを少し勉強してみる、自分の専門を一生懸命勉強する。ほかにも、課外活動、キャンパス外での活動、それぞれに一生懸命に努力していれば素敵な偶然はやってくるということを、学生たちに伝えたいと思います。

佐藤:それはまさに、フィギュアスケーターの坂本花織選手(本学経営学部4年次生)のことですね。北京オリンピックで、メダル獲得のプレッシャーや海外強豪選手に対する恐怖心に押しつぶされていたら、ひょっとしたらミスが出てしまったかもしれません。しかし、彼女は自分がやってきたことをすべて出す、ということに集中し、それをやりきることができた。その結果の銅メダルだった思います。さらに銅メダリストとして臨んだ「世界フィギュアスケート選手権2022」女子シングルでも、自分のやるべきことをやりきり、見事、世界女王に輝きました。本当に素晴らしいと思います。

中村:そのとおりなのです。それがまさによい例です。

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