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対談01

新旧学長が共に目指す”全学教育”とは

佐藤前学長の在任期間中に推進された数々の取り組みの中で、今後、神戸学院大学の財産となるものは何なのか。また、コロナ・パンデミックにおける大学としての挑戦について、新旧学長が振り返ります。

全学教育推進機構を立ち上げるなど、教育の質向上を図った佐藤学長時代

中村:昔、理系対文系の教員対抗野球試合を何度かやったことがありました。最後の試合は、当時のグリーンスタジアム神戸(現・ほっともっとフィールド神戸)を借りてやりましたが、その時、私が文系チームのピッチャーで、佐藤先生がキャッチャーでした。全然ダメなピッチャーで、理系チームに負けてしまったのですが、佐藤先生がキャッチャーとして、いろんな形で私の球を受け止めてくださって、かつ、的確な指示を出してくださったという印象が強く残っています。なぜ、この試合のことを思い出したかというと、佐藤先生の前任の岡田豊基学長時代に、学部を二つ新設しました。佐藤先生の学長在任期間中は、教育組織として大きな変化ではありませんでしたが、問われている事柄を確実に受け止め、さまざまな形で堅実にこなされてきた、という印象が強くあったからです。心理学部の独立、栄養学部の再編、そして佐藤先生が副学長時代に初代機構長を務められた全学教育推進機構の充実など、まさに名キャッチャーとしての舵取りだったなと感じています。

佐藤:ありがとうございます。私の前任の学長時代は、複数の新学部開設、定員増、および新校舎建設などの拡大路線をとってきましたが、それらがある程度完成しましたので、今後の本学の発展のために内容的な部分を充実させることを念頭に置き、ワーキンググループを多数立ち上げました。例えば、男女共同参画、のちに学生の未来センターにつながる退学防止、そして医療・保健・福祉系の4学部6学科が合同で運営するIPE(専門職連携教育)などのワーキンググループです。

その他、大きなトピックスとしては、ポートアイランド第2キャンパス、神戸三宮サテライトの開設、神戸学院大学出版会の設立、そして、人文学部から心理学部を独立させるとともに、大学院の心理学研究科を開設したことです。

中村先生に挙げていただいた全学教育推進機構は、全10学部が複数のキャンパスに分かれている中で、大学全体として教育の質を向上させるため、あるいは、学部を越えた課題に対応していくために必要であると考え、立ち上げた組織です。
全学教育推進機構は、今後、重要な組織になってくると思われますので、中村先生に引き続き取り組んでいただきたいと思っています。学部横断型プログラムは総合大学ならではの取り組みですし、強みでもあります。そしてなにより、学生の学びの選択肢が広がることにつながります。

全学教育という点で言えば、2022年4月より共通教育科目として、数理・データサイエンス・AI教育プログラムがスタートしました。2023年度からは経営学部のデータサイエンス専攻のほか、現代社会学部、心理学部、経済学部でデータサイエンス関連科目の履修証明プログラムを作る方向で動いています。これらについても、中村先生の時代に完成させていただきたいと思います。
データサイエンスや男女共同参画への取り組みについては、一つの教育プログラムにとどまらず、社会や企業との連携にも生かされてくるのではないかと考えています。

中村:引き継ぐべきものをしっかりと作っていただいたということは、本当に財産だと思っています。それらを引き継いだ上で、どのようにさらに良くしていくか。任期中にそれを考えなさい、という宿題をいただいたと思っています。

コロナ禍の大学運営 危機管理対策本部を立ち上げ、オンラインに活路を見出す

佐藤:いまだに収束のめどが立っていないコロナ禍も私の在任期間中の印象深い出来事です。2020年2月20日に、新型コロナウィルス感染症の感染拡大を受け危機管理対策本部を立ち上げました。これまで誰も経験したことのない状況に現場は混乱し、まずは学位記授与式、入学式の中止から始まり、新年度の授業について他大学の動きなども見ながら、遠隔授業(オンライン授業)の導入を決定しました。

危機管理対策本部は副学長、学部長、各センター所長、事務部長をメンバーとする約40人の大きな会議体です。このような大所帯で約2年間、全98回(2022年3月末現在)会議を開いてきました。執行部の決定事項をトップダウンで伝える方法をとっている大学もありますが、我々がこの方式をとったのは、なにがどこで起こっているのか、各学部・部署のトップ間で可能な限り情報共有し、共に動けるようにするためでした。教職協働、部署間協働、学部間連携を進め、全組織をあげて対応しました。

一番大事なのは学生の「学びを止めない」ということです。第二に、世帯収入やアルバイト収入の減少により、経済的な影響が顕著となっている状況の中で「脱落者を出さない」ことです。学びを継続するために、すぐに奨学金を給付すべきであると考え、常任理事会に提案、承認を得て、約1万1千人の学生全員に特別奨学金として一律5万円給付することを決定しました。さらに、アルバイトができず生活が苦しい学生に対して緊急経済支援奨学金という給付型奨学金を設けました。給付に際しては一刻も早い学生の救済のために複雑な証明書類の提出を求めず、基本的にヒアリングだけで即座に給付できるようにしました。これらを実施したのは国の支援体制もまだ整っていない頃のことでした。

中村:一教員だった立場で振り返ると、学生たちにとって十分なものだったかという検証はこれからではありますが、とにかく我々が遠隔授業をやったという経験が、非常に大きかったと思っています。遠隔であるがゆえに、しなければならない工夫がたくさんありました。授業の在り方を一生懸命考える機会にもなりました。すべての教員に当てはまることではないかもしれませんが、少なくとも私個人に関しては、何年も行ってきた講義の中身を遠隔であるがゆえに大きく変えました。結果、中身をよくしようとする努力ができたと思っています。ただ、そうした工夫を対面授業の中でも生かしていかないとも思っています。遠隔授業と対面授業の中身がまったく同じであれば、学生側としては自分の好きな時に見ることがきる遠隔授業を希望するようになるでしょう。しかし今後は徐々に対面授業に戻していくことになりますので、“授業の質”がより問われるようになります。このことが一番大きな印象として残っています。

一方で、オンライン上でしか同級生に会えず、コミュニケーションが取れない状況は、本来、学生たちが求めていた大学生活ではないはずなので、コロナ禍が過ぎ去った際には、より学生たちが求めていたコミュニケーションが感じられる大学にしなければいけないと思っています。授業の面でも、課外活動の面でも学生の交流がより深まるようなキャンパスにしていきたいと思っています。

遠隔授業の経験、学生との交流ということも含めて、コロナ禍での経験は今後に生かしていくべきだと強く思っています。

佐藤:中村先生がおっしゃるように、私も、コロナ禍は結果的にはオンラインというツールの可能性を引き出してくれた機会だったと思っています。他方で、対面授業の重要性が浮き彫りになったという側面もあったと思います。これからの大学教育、場合によっては大学間の連携においても、オンラインと対面のハイブリッドをどう生かしていくのかが問われると思います。

また教育面だけではなく、学生支援、就職支援といった生活面のサポートでもオンラインを生かしていくことで、学生支援の幅を広げていくことが可能になると思います。オンラインの活用は大学運営全体に関わってくることです。そして各大学の活用法次第では、学生支援の充実度に差が生まれてくる部分でもあると思っています。

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