希少疾患であるデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬開発を担う新会社の設立フロントライン

神戸学院大学の産学連携『最前線』

希少疾患であるデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬開発を担う新会社の設立

2013年3月、希少疾患の一つ、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(以下、DMDと表記)の治療薬を開発することを目的とした新会社「株式会社Orphan Disease Treatment Institute」が設立されました。この新会社は、政府系ファンドの株式会社産業革新機構、民間の有力ベンチャーキャピタルである三菱UFJキャピタル株式会社、製薬会社の第一三共株式会社が共同出資して設立したもので、DMD治療薬の開発は、この新会社と第一三共株式会社の共同開発によって進められます。
この治療薬は、総合リハビリテーション学部の松尾雅文教授を中心とするグループが長年取り組んできた研究成果をもとにしています。DMDは、遺伝子の異常により発症する難病です。新会社の設立をコアとした治療薬開発のスキームは、DMDの治療実現に向けた第一歩を踏み出す画期的なプロジェクトです。また、DMDの治療薬開発に向けた道筋がつけられたことで、難病であるにも関わらず患者数が少ないために治療薬の開発が進んでいなかった、他の希少疾患の治療薬開発を活性化させることが期待されます。

新会社の設立にあたって

デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬開発を目指す新会社を
今後の希少疾患治療薬開発のモデルに

第一三共株式会社 研究開発企画部 主席 佐藤 督 氏

私たち第一三共株式会社は、2002年より松尾教授をはじめとする研究グループとともにDMD治療法の開発に取り組んできました。DMDは、筋肉を構成するジストロフィンタンパク質が遺伝子異常によって生産されないことから起こる病気です。研究の過程で、当社の開発した核酸修飾技術(核酸を化学的に活性化・安定化させるもの)がDMD患者でジストロフィンタンパク質を生成させる可能性があることが分かり、それを応用した修飾核酸が今回開発する治療薬です。当社は、新会社とともに治療薬を開発しますが、今後も松尾教授らの研究グループと密な協力関係を維持しつつ、開発を効率的に進め、できるだけ早く、患者様に治療薬を使っていただけるようにしたいと考えております。
これまで、そのアイデアが従来の常識と異なるため、松尾教授が提唱するジストロフィンタンパク質発現のメカニズムはなかなか理解されませんでした。そのうえ、DMDが患者数の少ない典型的な希少疾患だったこともあり、新会社を設立して、治療薬の開発を開始するまでには多くの時間を費やしました。しかし、結果として構築したこの治療薬開発のスキームは、産学の連携によって生まれた有望な研究成果に対して、外部ファンドが資金調達して支援するという今までにない画期的な試みであり、周囲からも高く評価されております。今後の希少疾患治療薬開発の起爆剤となり、多くの患者様に新たな治療法を提供できるようにするためにも、この新薬の開発はぜひとも成功させたいと考えています。何より、治療薬を心待ちにしておられるDMD患者様に1日でも早く使用していただくため、我々も精一杯開発に注力していきたいと考えております。

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