2010年11月
「痛みからの解放」と「薬剤師育成」 これが私のライフワークin Focus

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~
「痛みからの解放」と「薬剤師育成」 これが私のライフワーク 徳山尚吾 薬学部 教授

鎮痛薬の研究で「緩和医療」に貢献したい

徳山尚吾 薬学部 教授
徳山尚吾 薬学部 教授

「痛みからの解放」。徳山尚吾教授が取り組む最大の研究テーマは、この一言に尽きる。「痛みを伴う疾患を対象とした『緩和医療』に関する研究をライフワークとして位置づけている」という。

もともとの専門は医療薬学と中枢薬理学。そして中枢薬理のなかでも特に麻薬性鎮痛薬(医療用麻薬)の研究を重ねてきた。「がんによる痛みに使用するモルヒネなどの持つ鎮痛機構、長く使用すると効果が無くなる耐性、依存性などのメカニズムを明らかにしたい。そして、より安全で効果が持続する鎮痛薬の開発に、合成分野の研究者などとも協力して取り組みたい」と徳山教授。痛みを発する疾患はがんだけでなく、糖尿病の合併症や脳卒中後の神経障害などのケースもあり、「さまざまな疾患による痛みからの解放を目指し、最終的に臨床に生かせる研究を進めていきたい」と話す。

そんな徳山教授が今、現存の医療用麻薬に加えて注目しているのが、サプリメントや健康食品。「例えば多彩な効能で注目されているDHA(ドコサヘキサエン酸)。我々は動物実験などによるスクリーニングの結果、DHAが、弱い痛みを制御する鎮痛作用を持つことを発見しました。今後、DHAのように安全性が確立されているサプリメントや健康食品の持つ新たな効能を見つけ出し、これまでにない鎮痛薬のシーズとして社会に提供できればと思っています」。

「研究して発信する薬剤師」の育成を目指す

徳山尚吾 薬学部 教授
徳山尚吾 薬学部 教授
研究室

徳山教授が薬理学に興味を持つきっかけとなったのは、かつて大学の薬学部で受講した授業だったという。「薬理学という薬そのものの機構を解明する研究に興味を覚えました。体内に入った薬が、どういった受容体(タンパク質)に結合し、どんなチャネルに作用するのかなど、薬の持つ仕組み、なぜこの薬が効くのかを解明することに魅力を感じました」。そして薬理学の基礎研究者としての道を歩み出した。「若い時は臨床現場への還元より、現象を解明することが面白く、自分の興味や関心に埋没していました。しかし本学で臨床薬学研究室を立ち上げ、病院や薬局などで医師や薬剤師さんと出会い交流するなかで、現場の実際を知り、もっと臨床に還元できる研究をしなくてはならないという強い思いが芽生え始めました」。

また、医師や患者とダイレクトに接して働く薬剤師を育成する教育の重要性も痛感。チーム医療の現場で大きな役割を担える臨床薬剤師の育成と、薬剤師の社会的存在感の向上に取り組もうと決意。「調剤などの仕事を医療過誤が起きないよう責任を持ってこなすだけでなく、医師が症例報告をするように、さまざまな薬剤師活動、例えば患者に対する服薬指導の成果などを調べて学会や専門誌に報告し検証するなど、社会に向けて積極的に発信する薬剤師を育てたい」。キーワードは研究する薬剤師。「最先端の論文に触れて科学的知識を蓄え、患者をベースとした意見を医師に言えるような薬剤師の育成が私たちの使命だと思っています」。

徳山教授は薬学部で「疾患と薬物治療」の講義を担当。中枢神経系・消化器系・内分泌系の3つの系に関する講義を展開している。薬剤師の国家試験に合格するための知識修得を基盤としながらも、「講義を通じて、病んだ患者さんのつらい気もちを理解し親身になって対応できる、心の持ち方などもぜひ学んでほしい」と、学生への思いを語る。

麻薬やサプリメントの実情を社会に訴えたい

標本
徳山尚吾 薬学部 教授

神戸学院大学は独自の研究成果を社会還元するため、一般市民を対象とした土曜公開講座を年2回、春と秋に実施している。秋講座は10~12月に開講しており、2010年12月4日(土)には徳山教授が「薬物乱用」のテーマで講演する。「依存性薬物の覚せい剤・コカインなどを実験で扱い、また医療用薬物の持つ依存性の原因を研究してきました。最近は一般市民の生活や教育の現場にまで薬物汚染が広まり、ますます低年齢化しています。薬物乱用とは、薬物を痛みの緩和など本来の目的以外に使うこと。一度きりであっても乱用です。講座では、依存性薬物の汚染に関する歴史に始まり、身体への恐ろしい影響などを説明し、薬物の怖さをアピールしたいと思っています」。

徳山教授は学外でも専門分野について話す機会が多く、かつて関西のラジオ局で兵庫県薬剤師会が提供する番組に継続出演していたほか、薬剤師・医師・一般市民を対象とした講演も数多くこなしている。講演のテーマで特に好評なのが健康食品やサプリメントの適正摂取について。「サプリメントブームは、今でこそ少し下火になりましたが、北海道から鹿児島まで飛び回っていた時期がありました。さまざまな商品やその成分に科学的根拠があるのかどうかや、正しい摂取の仕方などをわかりやすく説明しています。最近は特に健康被害などの報告も増加していますし、サプリメントや健康食品を信じすぎないことが大事です。今後の活動として、それらに関するエビデンス(科学的根拠)を収集し、実効性の有無などを具体的に示す書籍などを、医師・薬剤師・一般市民向けに出版できれば嬉しいですね」。

プロフィール

1986年京都薬科大学(薬学部、薬学科)卒業。90年、長崎大学大学院薬学研究科博士課程を単位取得満期退学。博士(薬学)。長崎大学薬学部助手、米国ミシシッピ大学医学部客員研究員、昭和大学薬学部助教授を経て、神戸学院大学薬学部教授に就任。現在、臨床薬学研究室を主宰し「研究する薬剤師」の育成に尽力するとともに、心身の痛みからの解放を目指す緩和医療への貢献を目標としている。

主な研究課題

  • モルヒネをはじめとするオピオイド類の耐性・依存形成機構の解明
  • 各種脂肪酸の抗侵害作用とその作用機序の解明
  • 抗がん剤適用時の医療用麻薬の適正使用法の確立に向けた基礎的検討
  • 脳卒中モデル動物における脳障害の解析とその予防戦略の開発
  • 糖尿病病態時における腸管 P-糖タンパク質の変動とその発現機序の解明
  • 生薬・民間薬からの抽出物あるいは新規化合物の生活習慣病治療薬開発に向けた基礎的検討
  • 健康食品・サプリメントの作用と薬物間相互作用に関する基礎研究
  • 在宅疼痛緩和医療における薬剤師の寄与に関する研究
  • ドラッグストアにおける薬剤師のあり方に関する研究

Information

第60回 土曜公開講座「私たちのくらしと文化」
日 時 12月4日 13:00~14:30
場 所 有瀬キャンパス 9号館1階 911講義室
講演テ-マ 薬物乱用 ― くらしにしのび寄る悪魔のささやき ―
担当講師 薬学部 徳山尚吾 教授
受講料 無料
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