金融機関のコンサルティング能力を高め
地域経済を活性化する in Focus

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 金融機関のコンサルティング能力を高め地域経済を活性化する(石賀 和義/経営学部 経営学科 教授)
神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 金融機関のコンサルティング能力を高め地域経済を活性化する石賀 和義/経営学部 経営学科 教授)

地域の金融機関が果たす中小企業支援の役割

地域の金融機関は、企業への融資を行って事業を活性化させ地域全体を盛り上げる、地域経済の核ともいえる存在です。近年では単に融資をするだけでなく、企業の課題を抽出しソリューションを提供し中小企業の経営支援を行う金融機関も増えています。

ここ数年、中小企業の経営環境は非常に厳しくなっています。コロナ禍は言うまでもなく、その後も円安や物価高騰、深刻な人手不足など、引き続き多くの問題が事業の行く手を阻んでいます。そのうえ、コロナ禍に際して実施された実質無利子・無担保で融資を受けられる「ゼロゼロ融資」の返済が到来し、大きなリスクとなっています。

ゼロゼロ融資とは、中小企業が運転資金などを借り入れる際に、一定の条件を満たせば信用保証協会の保証を付けることで無担保となり、利息についても補助金などにより無利子で借りることができる融資制度です。コロナ禍で苦境に陥った中小企業の多くが、ゼロゼロ融資によって破綻を免れました。

しかし、猶予期間が過ぎて返済が始まった今、その負担が重くのしかかり先行きに不安を抱える経営者が少なくありません。そこで地域の金融機関には、中小企業の悩みや課題に寄り添い、さまざまな支援によって事業の収益化、効率化を進めていく役割が以前にも増して求められているのです。

その支援の内容は、より幅広い領域へと広がる傾向にあります。従来、金融機関による経営支援といえば資金繰りや経費削減が中心でしたが、アフターコロナにおいては新規事業や業態転換などによる売上強化、人材紹介やDX(デジタルトランスフォーメーション:デジタルを活用した変革)にも拡大。その他、事業再生や事業承継も含め、まさに経営全般にわたる支援が期待されています。

私は日本銀行で、金融機関の先進的な取り組みを紹介し、浸透を図る仕事をしていました。その経験を生かし、経営学の理論を応用しながら金融機関のイノベーションや、事業・地域の活性化を実践的に研究・教育したいと考え、本学に赴任しました。

近年は、中小企業の経営支援を行う公的機関や金融機関などの取り組み事例を分析し、そのエッセンスを抽出して金融機関の中小企業経営支援を体系化する研究を行っています。特に経営学の理論を実際の経営実務に結び付けて提案できる実践的なコンサルティング機能の養成に関心があります。市場で何が受けているのかを敏感に感じ取る感応力や、外部の専門家と連携したり、企業とつなげたりするネットワーキング力なども含め、これからの中小企業支援に不可欠な要素を盛り込んだ金融機関向けの教育プログラムの構築もめざしていきたいと思っています。

日本の企業は約99.7%が中小企業です。金融機関の支援を充実させることは個々の企業のみならず、日本経済全体の活性化につながる。そんな展望のもと、研究に力を入れています。

銀行のDX戦略における課題解決を支援

ゼミ活動においても、銀行の新たな挑戦を支援しています。2023年度は大学コンソーシアムひょうご神戸の「企業課題解決プログラム」に参加し、株式会社みなと銀行の「若者向けSNS強化」に取り組みました。

みなと銀行では若者層の顧客と接点を増やし、資産形成に関心を持ってもらうための取り組みに力を入れています。その一環としてInstagram公式アカウントを開設し、情報発信を行うDX戦略を実施していますが、「お金の教育に関する記事の閲覧数が伸びない」「20代までの若い年齢層のファンをもっと増やしたい」などの課題がありました。そこで、本ゼミがアカウントの活性化や若い顧客を取り込むアイデアを提案することになりました。

学生たちはグループに分かれ、さまざまな観点から銀行と若者との接点について考察しました。みなと銀行のイメージを分析しSNS上で流す動画CMの作成をめざしたグループは、当初、他の金融機関との比較広告、自殺防止など若者の悩みの解決をテーマにした広告など、若者の注目を浴びやすいエッジの効いたアイデアを提案。しかし、銀行側からは、社会から批判され、かえってイメージダウンにつながるリスクが指摘されました。また別のグループは、若者の関心が高いワーキングホリデーに着目し、為替レートの変動によって生じた損失をカバーするような商品やサービスの可能性を考えましたが、これもコンプライアンスや現状の商品・サービスの範囲を逸脱するということで、受け入れられませんでした。

このような擦り合わせを3ヵ月間何度も行いながら、学生たちは金融機関の立場や役割、未来像に対する理解を深め、自分たちと社会人との見方や考え方の違いを自覚するなど、非常に大きな学びを得ることができました。また、金融機関にとっても、若い世代の発想や関心について気づきをもたらす意義のある機会になったと思います。

それぞれのチームが練りあげたアイデアは、7月に実施した発表会で提案。中でも、学生が選定した地域のショップをみなと銀行のInstagramに掲載するという提案は注目を集めました。ショップは学生やInstagramのフォロワー、口座開設者に割引サービスを提供します。みなと銀行にもショップにも集客・宣伝効果が期待でき、学生やフォロワーは割引サービスの恩恵を享受できるという「三方よし」のプロジェクトです。

これを含め四つの提案をプレゼンテーションした発表会の様子はマスコミで報道され、取り組みをまとめた論文は専門誌に掲載され学会で奨励賞を受賞するなど、高い評価を得ました。これらのアイデアは、お金を扱うために規制も規律も厳しい金融機関と柔軟な感性や思考を持った学生たちが真剣に討議する中で生まれた化学変化とも言え、金融機関のイノベーションを考えるうえでも有意義な経験になりました。

SNS版三方よしプロジェクトについての学生発表
授与された奨励賞の表彰状

栄養学部とコラボして学生の食の課題に挑戦

石賀ゼミの「学生チャレンジプロジェクト」の取り組みの様子

現在、ゼミで取り組んでいるのが「学生チャレンジプロジェクト」への参加です。本学の学生が自由な発想で企画したプロジェクトの実行を通して成長を支援する取り組みで、採択企画には大学が資金や人を援助します。本ゼミは「物価高に負けないぞ!学生栄養応援プロジェクト」と題した企画を提案し、採択されました。

若い世代の「食」についてはさまざまな問題が指摘されており、物価高など外的な要因も悪影響を与えています。そんな中、大学生の栄養状態を改善し学生生活をよりよいものにしようというのが、このプロジェクトの目的です。栄養学部とコラボして本学学生の栄養状態を調査し、不足している栄養素を補える新製品を企業と連携して開発しようというものです。すでに400程度のデータが集まっており、分析を始めているところです。詳細な分析結果が出たら、企業との共同開発を進めていくつもりです。

ゼミ活動は、学生が一つの事柄について深く掘り下げ、思考力や分析力を磨く場としてとても有効だと感じています。また、社会課題に敏感に反応し、解決に向けて実際に動く経験を通して、自分自身の言葉でものごとを語りオリジナルな考えを展開できる能力を身につけてほしいと思っています。

「失われた30年」とも言われる低成長時代を経て、日本人の自己肯定感はますます低下しています。しかし、これからの社会を支える世代には、誰もが幸せになれる可能性を信じ、そんな社会をつくってもらわなければなりません。そのためには、社会で役に立つスキルや生きる力と同時に、自分の心の中の真の言葉を聞いて、まずは自分が楽しむことができる能力がとても大事です。ゼミでの活動を通じて豊かな経験を積むことで自己肯定感を育み、自分の身の回りから地域社会や世界で求められていることへと関心を広げてもらいたいと思います。

Focus on subjects

-授業ピックアップ-

「企業金融論」「銀行論」を担当しています。学生にとって金融は遠い世界ですが、社会に出れば生活やビジネスに直結する分野。金融をなるべくわかりやすく説明し、理解につなげています。また、授業では考える能力を育てる工夫も取り入れています。毎回テーマを決め、800字程度のレポートにまとめてもらうのもその一つです。近年は企業の採用選考が早期化していることから、就職活動の支援材料も提供しています。採用担当者に注目してもらえるエントリーシートの書き方、一緒に仕事をしたいと思ってもらえる面接の受け方など、具体的な対策を指南。目標に向けてすべきことを明確にして就職活動への抵抗感をなくし、納得のいく就職活動への下準備をしてもらっています。

プロフィール

  • 学歴
    1989年 東京大学工学部電気工学科卒業
    2003年 筑波大学ビジネス科学研究科企業法学専攻修士修了
    2013年 筑波大学ビジネス科学研究科企業科学専攻単位取得満期退学
    2003年 修士(法学)筑波大学
  • 経歴
    1989年-2022年 日本銀行(金融市場局・信用リスク管理グループ、金融機構局・金融高度化センター など)
    2000年-2002年 格付投資情報センターストラクチャードファイナンス部
    2007年-2009年 預金保険機構金融再生部企画管理課
    2009年 内閣府 企業再生支援機構準備室
    2009年-2011年 企業再生支援機構 (現・地域経済活性化支援機構)ミドルオフィス 中小企業経営支援政策推進室
    2021年-2022年 京都大学大学院総合生存学館 特定教授
    2022年-現在 神戸学院大学経営学部 教授
    2023年-2024年 神戸国際大学経済学部 非常勤講師
    2023年-現在 神戸学院大学大学院経済学研究科経営学専攻 教授
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