「こだわらない、ことわらない」をモットーに農業が抱える課題解決に邁進する in Focus

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 「こだわらない、ことわらない」をモットーに農業が抱える課題解決に邁進する
(菊川 裕幸/現代社会学部 現代社会学科 講師)
神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 「こだわらない、ことわらない」をモットーに農業が抱える課題解決に邁進する
(菊川 裕幸/現代社会学部 現代社会学科 講師)

竹の循環的利用を研究

農業は私たちの生きる源である食料を生産する非常に重要な産業です。農業が抱える問題は、食料自給率の低さや食品の安全性など私たちにとって身近な食の問題とも密接に関わっていますが、残念ながら農業に関心を持つ人はそこまで多くありません。

私は、農業教育や地域資源に関する研究の経験を生かして、農村が抱える問題の解決や農村地域の活性化につながる幅広い活動を続けています。めざすのは、研究活動を地域や企業などと協働しながら実践に結びつけ、社会のさまざまな分野と農業との接点を創り出すことです。それによって、農業に関心を持つ人や日本の農業の未来を一緒に考える人が少しでも増えていくことを期待しています。

試験に使用する竹チップ

こうした活動の一環として、放置竹林の問題解決に向けた竹資源活用の研究を行っています。かつては竹が建材や日用品として重宝され、多くの竹林が管理されていましたが、プラスチックの普及に伴い需要が大幅に減少したことから、全国的に放置竹林の増加が問題になっています。竹の旺盛な繁殖力は他の樹木を駆逐し、根を深く張ることがないため、地盤を緩めて土砂災害を引き起こす可能性もあります。また、竹の密集で日が差し込まなくなることで、獣害を助長し、人や農作物に被害をおよぼしたり景観の悪化につながったりすることも問題視されています。

そこで着目したのが、地域の未利用・低利用資源である竹の資源活用です。竹をチップやパウダーに加工し、家畜の飼料や農作物の肥料、土の代わりとして利用する方法を探っています。また、竹をバイオマス燃料として利用する水素生成多目的ボイラーの試作や、地域の竹資源の調査、竹資源の地域循環の可能性といったテーマでも研究を進めてきました。

その他にも、近年では農福連携に取り組んでいます。農福連携とは、障がい者や高齢者などに農業分野で働く場を提供することで、自立支援や生きがいを創出し、農業の労働力や担い手確保につなげる取り組みです。政府の施策としても位置付けられて全国的に広がりを見せており、私は農福連携に関するさまざまなケーススタディや、農作業を分析して障がい者などにわかりやすく伝達する手法を研究しています。その成果を活用して農福連携に取り組むさまざまな人々に具体的なアドバイスを行っています。

地域を愛し地域に愛される人を育てる

協力して丹波黒を定植する学生

研究と並行して、ゼミの学生たちとともに、兵庫県内の各自治体の協力を得て、農村地域のフィールドワークや農業に関わる地域活動を進めています。例えば丹波篠山市でのフィールドワークでは、農福連携を進める事業所を訪問し、そこで働く障がい者の皆さんとともに農業体験を実施しています。学生たちは、地域特産品である「丹波黒大豆」の定植やトウモロコシなどの播種、ビニールハウス内のトマトの収穫と出荷調整、除草などの作業を体験しました。

同市では竹林整備の活動も行っています。竹林周辺の草刈りや倒木の抜去、竹林内の枯れた竹の除去や間伐、タケノコ掘りなどを継続的に行い、地域課題の一つである放置竹林・竹林拡大問題の解決につなげています。

ゼミでは、まず農業や課題解決の活動を実際に体験し、作業の楽しさや大変さを肌で感じてもらうことを最も大切にしています。地域に入って一緒に汗をかくことが地域について考える第一歩となり、地域活性化に向けた学びや研究への興味、ひいてはやりがいにつながると考えているからです。

整備後の竹林で記念撮影

また、学生たちが主体的に考え、行動することも基本的な方針にしています。例えば当ゼミが関わっている「山賊ワイルドラン&炎の宴 in 丹波篠山」の企画・運営も、ほとんど学生主体で進めてもらっています。このランイベントは、丹波黒枝豆の収穫や森林の間伐体験など、丹波篠山市の魅力や自然を感じられるアクティビティをこなしながら約28kmを走破するというユニークなものです。一般社団法人リベルタ学舎(神戸市)、草むらの學校(丹波篠山市)、そして当ゼミが連携し、地域外から地域に関心を持つ「関係人口」を増やし、地域の活性化につなげていく目的で2022年から開催しています。

学生は、参加者に町の魅力を味わいイベントを楽しんでもらうことばかりに目を向けがちですが、イベント自体の収益が上がらないと持続的な取り組みにはなりません。そうしたシビアな側面も含めて、社会人から異なる思考や視点を学ぶことは、学生にとって本当に貴重な機会です。異なる考え方を受け入れ、協働する方法を模索するなかで、コミュニケーションスキルも含めてさまざまな「生きる力」を身につけてくれていると感じています。

ゼミ活動を通じて何度も地域に足を運び、多くの人と出会い、深い関わりを持つことで、学生たちは地域の実情や思いを理解するようになっていきます。学生には、地域の人と一緒に汗をかき体験的に地域を理解することで、地域を愛するだけでなく地域に愛される人になってもらいたいと考えています。地域の人々との深い交流や農業体験は、学生個人にとっては地域と農業への関心を高めるだけでなく、スーパーやコンビニで商品を手前から取る、食べ残しをしないといったフードロスを防ぐ行動にもつながり、それが農業という産業を大切にする気持ちを育てるでしょう。また、地域と大学との継続的な交流は、農業や地域の問題について知恵を出し合う場を創るという意味でも重要なことだと考えています。

産官学連携プロジェクト「楽農アカデミー」

日本の農業はさまざまな問題に直面していますが、そのなかでも特に深刻なのが、少子高齢化や都市部への人口流出などによる農業人口の減少です。本学はこうした問題の解決をめざし、2023年度から産官学連携プロジェクト「楽農アカデミー」をスタートさせました。JA兵庫六甲、神戸市と連携した農業研修プログラムで、農業経験のない人でも現在の仕事を続けながら農業を学び、新たに就農する道を開くことができる画期的な取り組みです。

JA兵庫六甲が農作物栽培の基礎から販売方法などのノウハウ、本学が総合大学の強みを生かしてマーケティング、ブランディング、栄養学などの知識を提供します。私も講師の一人として、農業経営に挑戦する人を支援しています。

最近では、楽農アカデミー1期生が主催する、小学校のビオトープでお米を育てて食べる食育活動「田んぼプロジェクト」の手伝いも始めました。田植えや刈り取り、草取りなどの農作業体験や、田に生息する生物の観察、地球温暖化と農業について学ぶ環境教育も取り入れたプログラムです。ゼミの学生たちと一緒に農作業の準備から関わり、生物観察では学生が先生になって田んぼに棲む生物のスケッチを指導しました。今後、楽農アカデミーの枠組みを使って、さらに幅広い取り組みへと広げていくことも計画中です。

農業の課題は、食をはじめとする現代社会の課題と密接に結びついています。問題は多岐に渡っており、一つ一つの問題の解決にも幅広いアプローチが必要です。そこでは、多くの人が関わりつながることで、新たな解決の方向が見えてくることもあるでしょう。私自身は「こだわらない、ことわらない」をモットーに、農業の問題に実践的に関わっています。そうした取り組みを通して次の世代を育て、農業の未来を良い方向に進めていくお手伝いができればと思っています。

Focus in lab

-研究室レポート-

西紀北小学校で児童に企画を説明する様子

丹波篠山市で開催している「山賊ワイルドラン&炎の宴in丹波篠山」は、「地域との連携」がキーワードです。イベントを実施する同市西紀北エリアにチェックポイントを設けるため、地元・西紀北小学校に協力を依頼。ゼミ生が同校を訪問し、子どもたちに地域を案内してもらいながら一緒に「地域の宝」を見つけ、クイズを作成しました。当日参加者たちは、約30分かけて地元の神社やお寺、農園などを訪問し、クイズに答えながらゴールをめざします。学生たちは、地域の子どもたちと時間をともにすることで、地域を愛する気持ちを感じ取ったようです。このように現地に足を運び、手探りで、手作りでイベントを企画しています。必要以上の「こだわり」をなくし、さまざまな地域からの要望を「ことわらない」姿勢で臨むゼミ活動はとにかく泥臭く、そしてそれを楽しむ学生の笑顔にあふれています。

プロフィール

  • 学歴
    2011年 岡山大学農学部総合農業科卒業
    2016年 兵庫県立淡路景観園芸学校園芸療法課程その他修了
    2018年 九州保健福祉大学保健科学博士前期修了
    2021年 京都大学農学研究科森林科学博士後期単位取得満期退学
    2024年 博士(農学)京都大学
  • 職歴
    2013年-2018年 兵庫県立篠山東雲高等学校地域農業科 教諭
    2018年-2019年 兵庫県立農業高等学校園芸科 教諭
    2018年-2019年 西日本短期大学緑地環境学科 専任講師
    2019年-2022年 丹波市教育委員会 文化財課丹波市立氷上回廊水分れフィールドミュージアム教育普及専門員・館長補佐(学芸員)
    2020年-2022年 丹波市教育委員会 文化財課教育普及専門員
    2021年-2022年 兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科 客員研究員
    2022年-現在 神戸学院大学現代社会学部現代社会学科 講師
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