障害者の「実際の姿」を発信しそのイメージを変えていきたいin Focus

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 障害者の「実際の姿」を発信しそのイメージを変えていきたい(藤田 裕一/総合リハビリテーション学部 社会リハビリテーション学科 講師)
神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 障害者の「実際の姿」を発信しそのイメージを変えていきたい(藤田 裕一/総合リハビリテーション学部 社会リハビリテーション学科 講師))

障害があっても幸せと感じられる要因を探る

私は、先天的疾患である二分脊椎症のため、生まれつき下肢の麻痺と身体内部の障害があり、車椅子中心の生活をしています。自分自身が身体障害者であるという立場から身体障害者の当事者研究を続けており、なかでも「障害があっても幸せに生きる姿」に関心を持ってきました。

一般的に、障害者は「かわいそうな存在」だというイメージを持たれがちです。私自身、幼い頃から杖をついたり車椅子を使ったりしてきて、「大変ですね」「かわいそう」あるいは「頑張っていますね」というような言葉をかけられることが多くありました。しかし、私は自分を不幸だと思ったことはありませんでしたし、常に必死に頑張って生きているわけでもなかったので、なぜそのようなことを言われるのだろうと疑問を抱いてきました。

もちろん、障害があることで突き当たる大変さはたくさんあります。しかし同時に、障害があっても幸せに生きていると実感する瞬間があるのもまた事実です。多くの人が障害者に対して抱く一面的な見方やイメージを変えるためには、人々にもっと障害者について知ってもらう必要があります。

このように考えて、障害者が感じる幸福感と、障害に対する捉え方をテーマに研究することにしました。対象としたのは、20歳前から30代半ばぐらいまでの若い二分脊椎症の人です。彼らが感じる幸福感や障害の捉え方は、人生を歩むごとにさまざまに変化していきます。その変化に影響を与える要因を探るのが研究の目的です。

幸福感については、仮説を立てて質問項目をつくり、質問紙に回答してもらって分析する手法で研究しました。仮説を立てる際に手がかりにしたのは、アルフレッド・アドラーの心理学です。アドラーは20世紀の初頭に活躍した心理学者で、晩年に人間が幸せに生きるためには「共同体感覚」が大切だと述べました。共同体感覚とは、簡単に言えば「社会の中で誰かと繋がっている感覚」のことです。この共同体感覚は、自分を肯定的に捉えている「自己肯定感」、家族や地域、職場など所属する集団の中で、自分はその一員であり、周囲に居る人を信頼できると感じる「他者への基本的信頼感」、自分は助けられるだけでなく、自分も誰かを助け、誰かの役に立っていると感じる「貢献感」の三つから成り立っており、これらが高まると幸福感も高まるとしました。

二分脊椎症者の幸福感について調べてみると、このアドラー心理学の説のように、共同体感覚が大きな影響を与えていることがわかりました。障害があったとしても自分にもいいところがあるという「自己肯定感」、や「他者への基本的信頼感」が高い二分脊椎症者は、幸福感が高まっていました。そして、間接的にではありますが「貢献感」が高いと、「自己肯定感」や「他者への基本的信頼感」が高まることにもつながっていることもわかりました。また、共同体感覚以外にも、同じ障害を持つ仲間が多いことや、周囲の人々に障害の理解があるということが、幸福感の高まりに影響を与えていました。さらに、装具や福祉機器、専門家のサポートによって自分の行動範囲が広がっていると感じている人は、幸福感が高まっていることも明らかになりました。

人との関係が障害の意味づけを変化させる

一方、障害の捉え方についての調査では、対象者にインタビューを行い、小さい時から現在に至るまでのライフストーリーを語ってもらい、自身の障害の意味づけがどのように変化したのかを分析しました。その中で、意味づけがよりポジティブになるときと、よりネガティブになるときとで、変化をもたらした要因を探っていきました。

ポジティブになる要因で目立ったのは、まず、長所や強み(=ストレングス)を周囲が認めてくれたり、それを生かして生活できること、そして誰かの役に立っていると思えることです。たとえば、子ども時代の学校生活の中で、みんなの意見をまとめられる能力を認められてクラス委員になり役目をまっとうできた経験を通して、障害の意味づけがよりポジティブに変化していました。障害のためにできないことがあること自体は変わらなくても、できることが増えたり周囲の役に立てたりすることで、障害の捉え方や意味づけが変わってくるのです。

ネガティブになる要因として大きかったのは、障害があることを痛感させられたときでした。たとえば、いじめを受けたときがそうです。自分では変えることのできない障害がいじめの原因なのかと本人も自覚するため、心が大きく傷つきます。また、就職活動や就職の際に障害があることを痛感するケースも多くあります。私自身は、障害があってもよりポジティブに生きたいと、専門学校で精神保健福祉士の国家資格、大学院で臨床心理士の資格を取得しました。しかし、精神保健福祉士として就職しようと活動したとき、「職場がバリアフリーではないので採用はできない、障害がなければ採用できたのに」などと言われ非常にショックを受けました。調査ではこれらと同じようなエピソードを語る人も多く、障害があるがゆえの大変さを改めて感じ、同時に、同じ障害を持つ仲間の語りに共感もしました。

二分脊椎症者ならではの問題もあります。二分脊椎症には、足の障害に加えて排泄がコントロールできないという身体の内部の障害があります。後者だけの人は障害があるかどうかが、見た目ではわかりにくいために周りから理解されにくく、トイレの失敗をして馬鹿にされたりすることがあります。それが理由でネガティブになり、自分の障害をどう受け容れたらいいのかわからなくなる人もいました。

私のこれらの研究は、障害がある人も幸せに生きていくことができるということを人々に理解してもらうと同時に、周囲にどのような環境や理解があれば障害者がより幸せに生きられるかという問題にも一つの答えを与えられたと思います。また、私自身も予測していなかったのは、「障害がない人にとっても参考になる」という反応があったことです。誰にでも、努力をしてもどうしてもできないことや、他人より劣っているところはあると思います。そういった時に、自分の別の面に意識を向けて、自己を肯定的に捉える大切さを伝えることができたのではないかと感じました。また、一連の研究が評価され、2020年に日本保健医療行動科学会「中川記念奨励賞」をいただいたことは大きな励みになりました。

当事者の立場に立って考えられる想像力を育てる

私は福祉専門職を目指す学生に教えていますが、彼らにぜひ身につけてほしいのは、当事者の立場に立って考えられる想像力です。昔からよく言われる言葉に、「当事者の思いは当事者でないとわからない」というものがあります。私はこの言葉を、おかしいと感じてきました。もし本当にそうなら、当事者側の誰が何を発信したとしても当事者でなければ理解できないことになり、こんな無力なことはありません。大切なのは、当事者でない人も<想像力>を働かせつつ、「当事者だったらどう考えるか、どう感じるか」を考えることができるかどうか、当事者もそうでない人もお互いに理解し合えるかどうかだと思います。こういうことを最近では「当事者性」と呼んでいます。

では、この<想像力>はどのように育てるのか。たとえば、当事者による発信の機会を増やすこと、そして当事者とそうでない人がつながり合える環境をつくり、お互いを知ることが大切だと私は考えています。授業では、私が障害を持つ当事者であることを最大限に生かしてもらおうと、私自身や仲間から聞いた内容も含めて、ひとりの当事者として感じることをできるだけ話すようにしていますし、学生たち自身が聞きたいことも質問できるようにしています。互いに率直なやり取りをする中で、障害者への理解がより深まっていくことを期待しています。

また、障害者福祉をテーマにしたゼミで希望する学生には、私自身が主宰する福祉研究会に参加してもらっています。福祉研究会は、私の友人はじめ対人援助の現場にいる人やそれを目指す学生、障害のある当事者などが集まり、福祉にまつわるさまざまなテーマについて自由にディスカッションし合う場として2015年から始めました。コロナ禍になってからリモートによるやり取りになったのは少し残念ですが、遠方の人でも参加できたり、飛び入りできたり、リモートにもそれなりにいいところはあります。

学生のうちに現場の人や障害の当事者と何らかの形でつながり、現場の状況やさまざまな人の考えを聞くことは、将来、福祉や対人援助の仕事に携わるうえでとても役立つでしょう。私と同じ身体障害の人や前職で就職を支援していた障害者の人など含め、本当に幅広い人が積極的に参加し、心のうちをオープンに話し合うという機会はそうないかもしれません。学生たちからは「現場の声を聞けるのは役に立つ」「気づかなかったことに気づけて学びへのモチベーションが高まった」といった感想を聞きます。スキルや知識を得るというだけでなく、障害のある人もない人も対話し、考えを共有することを体験し「相手を理解したい」「理解してみよう」と思える人になってほしいと思っています。

今後も、障害者に対する偏見や固定化されたイメージを変えていく活動をしたいと考えています。障害があっても幸せに生きる姿は確かにある一方で、世間一般にはなかなか気づいてもらえない大変さもたくさんあります。障害者の実際の姿を理解してもらうことに焦点を当て、さまざまな形で発信を続け、社会を変えていくことにつなげたいと思います。

Focus ㏌ lab

-研究室レポート-

現在はコロナ禍のために中断していますが、以前はよく、ゼミの学生たちと一緒に学外に出かけていました。車椅子に乗っている私と町を歩くと、いかにバリアがあるのかに気づいてもらえるからです。物理的なバリアフリーが一見整備されていそうな場所も例外ではありません。たとえば、駅ではエレベーターはあってもその位置がバラバラで乗り換えのたびに長い距離を移動しなければならなかったり、車椅子用のトイレはあってもその場所がわかりにくかったりするなど、「見えないバリア」は体験してこそ見えてきます。コロナが一段落したら積極的に町に出て、若い想像力もフルに働かせてバリアフリーなど社会にある課題をリアルに考えてもらうつもりです。

プロフィール

2003年 追手門学院大学人間学部心理学科卒業
2005年 神戸医療福祉専門学校精神保健福祉士科卒業
2008年 神戸親和女子大学大学院文学研究科心理臨床学専攻修士課程修了
2017年 大阪府立大学大学院人間社会学研究科社会福祉学専攻博士後期課程単位取得満期退学
博士(社会福祉学)[2019年 大阪府立大学]
2005-2006年 特定非営利活動法人中央むつみ会非常勤相談員
2009-2011年 特定非営利活動法人Feuerstein Learning Center嘱託心理士
2011-2018年 ハローワーク梅田 精神障害者雇用トータルサポーター
2009年- 平成リハビリテーション専門学校、神戸医療福祉専門学校、千里金蘭大学、神戸大学、神戸市看護大学、神戸女子大学、関西国際大学、大阪女子短期大学の非常勤講師を歴任
2018年- 神戸学院大学総合リハビリテーション学部社会リハビリテーション学科講師

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