2021年1月 世界の仕組みを理解し社会課題を身近に捉える感性を育てるin Focus

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 世界の仕組みを理解し社会課題を身近に捉える感性を育てる(江田 英里香/現代社会学部 社会防災学科 准教授)
神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 世界の仕組みを理解し社会課題を身近に捉える感性を育てる(江田 英里香/現代社会学部 社会防災学科 准教授)

研究と国際協力活動を両立

私は、カンボジアをはじめとする途上国の教育開発について研究しています。興味を持つきっかけになったのは、大学時代のベトナム旅行でした。北から南まで1カ月かけて巡るうち、都市部と比べて地方には学校に行けていない子どもがたくさんいることに気づきました。なぜそのような格差が生まれるのか、また教育を受けたくても受けられない子どもたちがいる状況を少しでも改善することはできないだろうかと考え、大学院に進学して途上国の学校教育や教育の地域間格差について研究を始めました。

現在の研究テーマは、学校運営における住民参加についてです。カンボジアでは、2000年度以降、地域の人たちが学校運営に参加する仕組みを導入し、子どもたちの退学・留年の減少など良い影響が出ています。住民の教育への関わり方やその効果について実態調査を行い、2019年『カンボジアの学校運営における住民参加』(ミネルヴァ書房)にまとめました。


研究のかたわら、カンボジアでの国際協力活動にも参加しています。大学院時代にカンボジアで移動図書館を運営するNGOの立ち上げに関わり、7カ月間滞在したことがスタートです。日本の絵本を英語とカンボジアの言葉であるクメール語に翻訳し、村で読み聞かせや紙芝居をしました。カンボジアはベトナム以上に教育の地域間格差があり、経済的理由で学校を辞めてしまう子どもたちがたくさんいます。学校に行かないと文字に触れる機会がなくなり文字を読めなくなってしまうため、少しでも文字に触れる機会を提供したいと活動を始めました。

軌道に乗った現在は運営をカンボジア人に引き継ぎ、私たちは彼らの活動を後方支援しています。経済の発展が進み、多くの子どもたちが自転車を持つようになって行動範囲が広がってきたので、村に拠点となる図書館を建設。さらに、子どもたちの要望を受けて英語、日本語、コンピューター、サッカーなどの教室を開き、カンボジアでは珍しい女子サッカーのクラブチームを設置するなど、徐々に活動の幅を広げています。

世界経済の仕組みをゲームで学ぶ

カンボジアは日本から見ると遠い国のようですが、実はカンボジア製品はたくさん日本に輸入されており、私たちも普段の暮らしの中でよく目にしています。グローバル化が進展した現代、カンボジアだけでなく世界の国々は、思った以上に身近な存在になってきているのです。

そうした現代の世界経済について、基本的な仕組みを子どもたちにも知ってもらおうと実施しているのが、「貿易ゲーム」を使った取り組みです。神戸市と神戸学院大学が連携するプログラム「KOBEこども大学」の一環として行っています。貿易ゲームのルールは、紙とはさみ・定規・分度器などの道具だけを使い紙を丸や四角、三角などの形に切り、それを売って一番お金を儲けたチームが勝ちというもの。子どもでも簡単にできるゲームですが、実は紙は資源、道具は技術を表し、資源を技術で製品にして売買する現実の貿易のあり方をシミュレーションできるようになっています。チームによって配布されるものに違いがあり、紙はあっても道具がないチームは資源はあっても技術のない途上国、紙は少ないけれども道具が揃っているチームは技術のある先進国をモデル化しているのです。

ゲームを始めた直後は戸惑っている子どもたちも、やがて、「はさみを貸して」「代わりに何をくれるの」「紙を1枚あげるからはさみを10分貸して」といったやり取りを始めます。これがまさに貿易です。勝つためにはお金を儲けないといけないので、はさみを貸す代わりに作ったものの売り上げの半分を差し出させたり、紙しかないチームからどんどん紙を取り上げたり、理不尽に見えるやり取りにもなります。ゲームが終わった後に自分たちが行ったそうしたやり取りを振り返り、強い国が弱い国に圧力をかけて自分たちに有利な取引を行うことや、資源しかない国から資源を奪ったらどうなるかなど、国際社会の現実に照らし合わせながら考えてもらいます。親しみやすいシミュレーションゲームを楽しみながら、世界のモノやお金が動いていく原理や、途上国がいつまでも貧しいままでいるという世界経済の問題点などを大まかにつかむことができるのです。

日本は食べ物やエネルギーなど多くのものを海外の国々からの輸入に頼っていますが、暮らしの中ではなかなかそれを意識することはありません。このような取り組みによって小さいうちから、世界と日本、世界の人々と自分とが深く関わっていることを知り、自分の国だけで生きているのではないという意識を持ってほしいと思います。それが、世界を見る視野を広げ、グローバル社会を生きるために必要な感性や行動力を育てることにつながると考えています。

地域のために働く楽しさを体感する

子どもたちに貿易ゲームを体験してもらう取り組みでは、ゼミの学生に子どもたちのお世話役として参加してもらっています。国際協力やボランティアに関心があり貿易ゲームの経験もあるので、世界経済の仕組みの理解がより深まるよう子どもたちを上手にリードしてくれています。学生たちには、世界に目を向けると同時に身近な地域のことを考え行動できる人になってほしいと考え、地域の人々と関わるこうした活動に積極的に取り組んでいます。

また、大学のある神戸市のみなとじまエリアで実施している「みなとじま助け隊」というボランティアインターンシップは、地域と関わり人々のために行動する楽しさや充実感を感じてもらえる取り組みです。その特徴は、学生が地域のために役に立てることを考え、地域に提案してボランティアを実践していくところです。例えば、子ども会の協力を得て行ったお母さんの働き方を応援するプログラムもその一つです。子ども会のお母さんたちから暮らしの中で何に困っているのか話を聞き、どのようなサポートができるかを学生たちで考えていきます。そこから、家事や用事を効率的に済ませられるまとまった時間がほしいというお母さんたちからの要望に応え、子ども向けの映画の上映や夏休みの宿題を見てあげるなどの取り組みを学生が主体となって行いました。

このような実践的な活動を通して、困っている人、取り残されている人に目を向け、その役に立ちたいと考える学生も徐々に増えてきました。「できる人ができることを、できる時にやる」ということを心がければ、もっと世の中はよくなるはずです。現代は、強者が勝ち残り弱者が負けていく格差社会とも言われますが、そのあり方を変えるには、今までの常識を打ち破るような発想の転換とそれを実行して社会を変容していく行動力が必要です。若い世代の人たちには、地域をはじめ様々な人々とつながる経験の中で柔軟な発想を蓄え、人と協働しながら問題の解決にあたっていく力を身につけてほしいと思っています。

Focus ㏌ lab

―研究室レポート―

ゼミでは、SDGs(Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標)の17の目標の中から、学生一人ひとりが興味のある目標を調べて発表しています。掲げられた目標は、社会の課題から出てきたもの。みんなの発表を聞いて社会の課題を理解するとともに、どうしたらそれらを解決していけるのかを話し合いながら自分事としてとらえてもらうことがねらいです。普通はやらない非常識な解決法はないか、今までやっていたことをやらないという選択肢もあるのではないかなどの問いかけを行って、自然と陥っている思い込みや固定観念から自由になり考えてもらうよう働きかけています。

プロフィール

2003年 神戸大学大学院 国際協力研究科 博士課程前期課程 修了 (修士(国際学))
2012年 神戸大学大学院 国際協力研究科 博士課程後期課程 満期退学
博士(学術)[2017年(神戸大学大学院国際協力研究科)]
2006~2014年 学校法人八洲学園八洲学園大学生涯学習学部 専任講師
2014~2018年 神戸学院大学現代社会学部 専任講師
2018年~ 神戸学院大学現代社会学部 准教授

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