2020年11月 社会のニーズに応える実践的な教育研究を目指してin Focus

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 社会のニーズに応える実践的な教育研究を目指して(田中 康介/経営学部 教授)
神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 社会のニーズに応える実践的な教育研究を目指して(田中 康介/経営学部 教授)

社会の利益や人々の幸福を生み出す経営戦略

私が研究しているのは、企業の経営戦略です。最近は、利潤を生む仕組みであるビジネスモデル、特にプラットフォーム・ビジネスモデルを具体的に研究しています。プラットフォームとは、ビジネスを成り立たせるための土台となる形のことで、一般的には共通の基盤と理解されています。

プラットフォーム・ビジネスモデルの代表的なものに、楽天市場やアマゾンのようなインターネット通販の仕組みがあります。楽天市場の場合、インターネット上の商店街というプラットフォームをつくって消費者とビジネスをしたい人たちを結びつけ、出店料などで利潤を得るというビジネスモデルです。

こうしたインターネット上のシステムのようなソフト面だけでなく、ハード面でもプラットフォームは存在します。たとえば、パソコンの心臓部であるCPU(中央演算装置)では、インテルの製品が世界的に高いシェアを占めています。また、自転車業界のインテルとも言われる日本のシマノは、変速機やブレーキなどがセットになったコンポーネントを開発し、世界のスポーツ用自転車において膨大なマーケットシェアを獲得しています。このように、その製品に不可欠な世界標準の中核技術も、プラットフォームなのです。私は、ソフト・ハードにかかわらず、市場を席巻するようなプラットフォーム・ビジネスモデルの事例を研究し、成功の要因を探求しています。

ビジネスモデルも含め、ビジネスには経営革新、すなわちイノベーションが欠かせません。私は、日本の大学院で学んだ後、アメリカのビジネススクールで、企業家精神やベンチャー企業の経営戦略について研究しました。新規事業や新製品・サービスの開発に高い創造意欲を持ち、リスクに対しても積極的に挑戦していく姿勢や、物事の革新をもたらす発想・能力のあり方を探ってきました。現在の社会や経済の状況は当時とは違いますが、たとえ時代がどのように変化しても、イノベーションに挑戦していく企業家精神やベンチャー的なチャレンジは経営に不可欠です。そして重要なのは、製品の販売、サービスの提供を通して単に利潤を上げるだけではなく、ビジネスやそのイノベーションによって、社会的な利益や価値、人々への幸福をもたらさなくてはならないということです。学生に対する経営学教育においても、特にこのような考え方を身につけてもらうことが重要だと考えています。

積極的に取り組むアクティブ・ラーニング

ビジネスやイノベーションの意義を学ぶのに格好の機会が、アクティブ・ラーニングです。アクティブ・ラーニングとは、教員の講義を聴く受け身の学習ではなく、学生が体験や調査を通して自ら学び、発見や問題解決を経験していく能動的なスタイルの学習です。私が担当するゼミでは、2年次に学内でのグループワークやディスカッション、プレゼンテーションを経験したうえで、3年次に学外に出て、より実践的なアクティブ・ラーニングにチャレンジします。学生たちは、地域のさまざまな企業や店舗、そこで働く人々と一緒に、新たな商品・サービスの開発や販売、イベントの企画や運営、地域貢献活動などを経験しながら経営戦略を学んでいます。


私がゼミで、このような取り組みを始めるきっかけになったのは、兵庫県内の大学の連携組織「大学コンソーシアムひょうご神戸」主催の「学生プロジェクトプラン・コンペ」に参加したことでした。県内の地域や企業が抱える課題の解決に向け、アイデアとプランを競い合うもので、学生は自主的に、とても熱心に取り組みました。私自身は、ヒントを示したり少しアドバイスをしたりする程度で、アイデア出しにもプレゼンテーション資料のまとめ方にも余計な口出しはせず、できるだけ学生の自主性・主体性を尊重するようにしました。そして、できあがったプランは創意工夫に満ちており、兵庫県知事賞を受賞するという優れた結果を残しました。私は、経営戦略と組織のあり方について研究していますが、企業組織では、大まかな方針を示して、できるだけ担当者に権限を持たせたほうが、モラールやモチベーションが高まります。学生たちも、任されたことでモチベーションを高め、どんどん良いアイデアを出すことができたようです。このプロジェクトには3年間、参加しましたが、学生たちの積極的な活動や努力に対して最優秀賞、兵庫県商工会連合会・会長賞、神戸商工会議所・会頭賞など、多くの優れた評価をいただきました。

先輩たちの活躍を見た学生たちは、さらに自主性を高めていきました。本学創立50周年記念事業として行われた、大学と地域の活性化・社会貢献を目的とした「学生チャレンジプロジェクト」にも名乗りを上げ、地域の企業などに自ら連絡を入れ情報を集めるなど、精力的に取り組みました。そんな姿勢に共感してくださったのが、神戸市の老舗菓子店です。かねてから新規の顧客開拓を目指して若い世代にマッチする商品づくりを検討されていたこともあり、学生との共同商品開発プロジェクトに、ご協力いただくことになりました。これをきっかけに、代々のゼミ生が菓子店との共同開発で新商品を生み出してきました。なかでも、日本で初めてオリーブ樹が植え付けられた植物試験場があった神戸の歴史にちなんで、オリーブの実を使って開発したクリームサンドクッキーは、味や見た目、ストーリー性など完成度の高いものでした。日本商工会議所と全国観光土産品連盟が共催する「NIPPON OMIYAGE AWARD」に出品し、食品部門で2番目の褒賞である特別審査優秀賞を受賞しています。


商品開発にあたっては、神戸の地域性を生かす商品づくりのために、消費者へのアンケート調査や食材の生産地の視察も実施しました。このような実践的な学びから、プロダクト・イノベーションを実現するための基本的な考え方や手法が身についていきます。また、学生たちは、自分たちのアイデアを形にするために、さまざまな人や企業、団体と話し、協力を仰ぎました。その経験を通じて、ビジネスにとってのネットワークの大切さを感覚的に理解することができたと思います。さらに、商品の開発から販売までを一貫して体験するのもポイントです。自分たちの開発意図を一緒に開発に取り組む人たちに、どのように説明するか、商品の特長をどう魅力的に消費者へと伝えたらよいのか試行錯誤するなかで、講義で学んだマーケティングやプロモーションの基本的な知識を実際に確かめることができました。

地域の課題を知り、地域貢献のあり方を学ぶ

ゼミでのアクティブ・ラーニングの取り組みは、地域や企業など協働する人々が抱える課題の解決を目標にしています。取り組みを通して、実際に地域で何が起きているのかを知り、協働する人々から課題や要望を聴き取る力を養ってもらいたいからです。

たとえば、兵庫県の伝統野菜を使った商品開発のプロジェクトでは、昭和30年代まで阪神間で多く作られていたというオランダトマトをはじめ、鳴尾いちご、尼崎の沿岸部特産の尼いもなど、市場では今ほとんど見かけなくなった伝統野菜の存在を知りました。伝統野菜保存会の方々のお話を聴いて、地域に根付いてきた品種が、なぜ途絶えようとしているのか、保存活動の課題とは何かをしっかりヒアリングしたうえで、伝統野菜の保存に貢献する商品開発を目指すことになりました。学生たちは、これからも伝統野菜が作り続けられるためには、単にそれを使った商品を開発するだけでなく、市場拡大や流通が課題であることに気づきました。そこで、ジャムやプリンなど開発した商品を大学祭で販売し、その販売実績と試作品を持って、全国に販売チャネルを持つ通販企業に出向くなど、販路の開拓にも挑戦しています。


今年度の3年次生は、兵庫県内に店舗を展開する自動車ディーラーと共同で、自動車販売のマーケティング、販促イベント、地域貢献活動などの企画・運営に取り組んでいます。この自動車ディーラーは、高齢化が進む地域で乗り合い車を配車する新しい交通システムの実証実験を行うなど、地域貢献にも積極的な企業です。この連携では、単に売ることを目指したマーケティングやプロモーションだけでなく、商品やサービスを通した地域貢献のあり方を学んでいきたいと思っています。コロナ禍で、リモートによるプレゼンテーション、ディスカッションなどを進めてきましたが、いよいよ2020年10月からイベントへの参加や体面実習など、本格的な活動に向かって走り始めました。


このようなアクティブ・ラーニングの現場で、普段は引っ込み思案な学生が、いつのまにか前面に出て活躍している光景に何度も出会いました。何かを成し遂げた、認められたという経験が、もっとやりたいという成長の欲求へと、つながっているのが、よくわかります。もちろん、どうしたら商品が売れるのか、市場環境の変化を観察して、どう対応していくのかを考え、経営戦略を生み出す基礎力を身につけられる、生きた学びの場であることは言うまでもありません。さらに、さまざまな職業、年齢、考え方の人々との交流によって、社会で職業人として活躍するのに必要なコミュニケーション能力も磨かれていきます。企業家精神を発揮して社会に貢献できる人材の育成と、学生たちの思いがけない気づきが地域活性化のお役に立つことを目指して、今後も積極的に地域と学生との協働を実施していきたいと思っています。

Focus on lab
―研究室レポート―


2年次生のゼミでは、「なぜ100円ショップは安いのか」「なぜ通販で買ってしまうのか」など、学生にとって身近な事例をテーマに取り上げ、ビジネスとしての考え方や仕組みを学生自身が調べて答えを見つけ出します。グループで課題に挑戦するなかで、協調関係の築き方や、人に自分の考えを伝えるスキル、リーダーとして人を引っ張っていく力なども身につきます。何より、友だち同士で一つの目標に向かって努力する楽しさを感じ、経営学に興味を持ってくれる良い機会になっています。

プロフィール

1983年 慶應義塾大学 商学部(卒業)
1985年 慶應義塾大学大学院 経営管理研究科修士課程(修了)
1988年 慶應義塾大学大学院 商学研究科博士課程(単位取得満期退学)
商学士 1983年3月 慶應義塾大学
経営学修士(MBA)1985年3月 慶應義塾大学
1988-2008 産業能率大学(国際経営研究所研究員、経営情報学部講師・助教授、経営学部・大学院教授)
1995-1996 米国ノースウエスタン大学J.L.ケロッグ経営大学院 客員研究員
1996-2002 防衛大学校 社会科学専攻管理学科 講師(非常勤)
2008-現在 神戸学院大学 経営学部・大学院経済学研究科 教授
2009-2011 関西学院大学総合政策学部 講師(非常勤)
2010-2016 神戸学院大学 学生支援センター 所長
2016-2020 神戸学院大学 経営学部長
2020-現在 神戸学院大学 副学長

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