2019年11月 地域へ世界へと視野を広げ「社会のリハビリテーション」に取り組むin Focus

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 地域へ世界へと視野を広げ「社会のリハビリテーション」に取り組む 佐野 光彦 SANO Mitsuhiko 総合リハビリテーション学部 准教授
神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 地域へ世界へと視野を広げ「社会のリハビリテーション」に取り組む 佐野 光彦 SANO Mitsuhiko 総合リハビリテーション学部 准教授

大学に期待される地域への社会貢献

私は、総合リハビリテーション学部に所属していますが、この「リハビリテーション」という言葉は、「再び人間らしい状態にする」というラテン語を語源としています。人に対するリハビリテーションの場合は、患者さんが地域社会で自立した生活を送れるようにすることです。それを社会に当てはめた「社会のリハビリテーション」という考え方が、今、注目されています。たとえば、人口急増期に各地で開発されたニュータウンでは、少子高齢化やライフスタイルの変化によって地域の活気が失われ、コミュニティが衰退するといった問題が起きています。これらの課題に対して、公的機関が行う社会福祉に加え、ボランティアやNPOなどが主体となる社会貢献活動によって問題を解決しながら、地域や社会をよりよい状態に戻していくといった取り組みが重要視されているのです。

大学としては、地域の課題について積極的に取り組み、社会貢献を果たしていく必要があります。東京への一極集中で地方が衰退していく時代に、大学が市民と一緒になって地域の活性化にこれまでにない創造的なアイデアを出すことが求められています。各分野の研究者が専門を生かしてイノベーションに取り組み、学生も参加して若い柔軟な感性を十分に生かすことが期待されているのです。

大学の社会貢献は、学生の教育においても非常に大きな役割を果たしています。社会の変化が人々にどのような影響を与え、どのような課題が生じているかを肌で感じることができるのはもちろん、実際に問題を抱えた人や、その支援を行う団体と直接かかわりながら、課題にどのように対処していくか考える力、自分の能力を見極め挑戦していく力を養うことができます。

研究室で本を読んで学ぶだけでなく、積極的に学外に出て行くのが私のスタイルです。学生たちには、さまざまな社会貢献を行うことで、自分も社会の一員であることを認識し、人は誰かを助け、誰かに助けられる存在であることを実践から学んでほしいと考えています。

行動しながら学び成長していく学生たち

社会貢献の一つとして取り組んでいるのが、神戸学院大学にも近い、神戸市垂水区と明石市にまたがる大規模団地、明舞団地の再生活動です。55年の長い歴史を持つ明舞団地では高齢化が進み、コミュニティの再生が課題となっています。私たちは、異なる世代の人たちが一緒にコミュニケーションを取れる場づくりを通して町の活性化を図り、コミュニティをよみがえらせようという活動に取り組んでいます。例えばサービスラーニング実習という授業の一環で、学生が企画した映画上映会を実施しています。また、小学校を拠点とした地域の祭りで、子どもたちと一緒にできる水遊びや折り紙、エコクッキングなどの催しに参加しています。これらには学生たちの発想力や企画力が、地域の方々の役に立っています。

学生たちは、このようなボランティア体験を通じて、実地に学びながらコミュニケーション能力を身につけています。コミュニケーション能力を高めるには、大人や子どもなどさまざまな世代の人と話すことがとても大切。明舞団地の取り組みでは高齢者の人たちと話す機会が多く、学生はそこから多くのことを学びます。失敗し厳しい言葉をいただくこともありますが、そうして地域社会で鍛えてもらいながら信頼を得るために必要なことを自分のものにしています。

また、アジア地域に対して幅広い支援活動を行うNGOの活動を20年以上続けている関係から、学生にもNGOの活動を体験してもらっています。上記のサービスラーニング実習で、2週間ほどNGOの活動に参加。アジア18カ国のスタッフが一同に会するセミナー(アジアネットワークセミナー)、次世代を担う高校生が集まってアジア全体のことを話し合う会議(アジアユースサミット)など、様々な活動をサポートしています。Think Globally, Act Locally: Think Locally, Act Globally(世界的視野で考えて、地域で行動する: 地域のことを考えて、世界で活動する)を基本理念に、広い視野と行動力を身につけてほしいと思っています。

日本とアジアを見つめた社会貢献活動

私は、バングラデシュの地域研究を専門にしており、バングラデシュ社会の最下層の人たちの調査や政治家へのインタビューなどの研究活動を行う中でバングラデシュとのネットワークを築いてきました。近年は、研究者や医療・福祉関連の実務家を招いて研究会や講演会を実施するなどの活動を通して、学内でのアジアやバングラデシュへの関心を高めています。

このようなつながりから、総合リハビリテーション学部では、バングラデシュへの支援を行っています。バングラデシュでは、3年ほど前、二大政党の争いが激化したことによってテロが起こり、多くの被害者が出ました。被害を受けられた方のリハビリテーションを担当している現地の麻痺障害者リハビリテーションセンターに、本学から義肢装具の資材を提供しました。

今後も、日本を含めたアジアを見つめながら、社会貢献や研究活動を進めていきたいと考えています。また同時に、地域にとって神戸学院大学が必要とされる存在であるよう、社会貢献活動の充実を図っていきたいと思っています。

Focus on lab
―研究室レポート―

授業でもゼミでも、学生に体験してもらい、そこから何かを感じ取ることを大切にしています。神戸マラソンには初期の頃からボランティアとして関わり、現在では授業として社会リハビリテーション学科の1年次生全員が参加しています。また、B-1グランプリin明石では、子どもたちのためのイベントを学生が考え、折り紙ハンドスピナー、ミサンガづくりや、鈴が入ったボールを使う目の見えない人の球技「ゴールボール」体験など人気企画を生み出しました。こちらが指示するのではなく学生の自主性に任せているので、うまくいかないこともありますが、その分得るものは大きいと考えています。何事も決めた通りには運ばないことを知り、自分たちで判断して臨機応変に対応することを覚えてほしいと思っています。

プロフィール

1987年 神戸学院大学 法学部法律学科 卒業
1998年 神戸学院大学 大学院法学研究科博士後期課程 単位修得退学
2008年 博士(法学)取得(神戸学院大学)
2002年9月~2010年3月 神戸学院大学 非常勤講師
2010年4月~2018年3月 神戸学院大学総合リハビリテーション学部 専任講師
2018年4月~ 神戸学院大学総合リハビリテーション学部 准教授

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