2019年6月 異文化を理解し意思を伝えあう真のコミュニケーション能力を養成in Focus

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 異文化を理解し意思を伝えあう真のコミュニケーション能力を養成 仁科 恭徳 Takako Matsubara グローバル・コミュニケーション学部 准教授
神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 異文化を理解し意思を伝えあう真のコミュニケーション能力を養成 仁科 恭徳 Takako Matsubara グローバル・コミュニケーション学部 准教授

言葉の実態を科学するコーパス言語学

私の専門の一つは、コーパス言語学と呼ばれる比較的新しい学問分野です。コーパスとは、新聞や雑誌などの書き言葉や文字に起こした話し言葉を大量に集め、検索や分析ができるようにした言葉のデータベースのこと。そのコーパスを使って、言語がどのように使われているのかを分析するのがコーパス言語学です。インターネットを使って膨大な言語情報がやり取りされている現代では、より多くの言語資料を収集して高度な解析を行うことが可能になっています。最近ではテキストデータから有効な情報を取りだすテキストマイニングの手法も精緻化され、今まで人間の直感では分からなかったさまざまな言語実態が明らかになりつつあります。

歴代アメリカ大統領の一般教書演説をコーパス化して、どのような表現が頻繁に用いられているのかを分析してみると、面白いことが分かります。たとえばオバマ大統領がよく使った"Yes, we can"ですが、特にweとcanは、1980年以降に当選した大統領によく使われた単語です。そこに、肯定的な印象を与えるYesを組み合わせたのは、まさにオバマ氏の慧眼と言っていいでしょう。

また、翻訳コーパス(通称パラレルコーパス)を活用することで、実際に翻訳で頻繁に使われている表現が分かります。たとえば「円高不況」の英訳は、辞書によってはendaka recessionという表現になっていることがありますが、プロによる翻訳では、recession caused by the high yenやrecession caused by the yen's appreciationなど、あえて受け身の形で訳されることが多いのです。このように、コーパスを用いて熟練の翻訳スキルを学ぶこともできます。

辞書の編纂も、コーパスの恩恵を最も受けている分野の一つと言えます。昔の辞書制作では、編纂者自らが手作業で集めた用例を使うのが一般的で、辞書に収載される用例は主観に左右されがちでした。私はコーパスを駆使した辞書編纂に関わっていますが、今では大規模なコーパスをコンピュータで解析し、実際に特定の語・句がどのように使われているのかという言語事実を反映した用例の掲載や意味の記述が可能となっています。たとえば、centripetal forceという名詞句は、物理的な求心力という訳語しか掲載されていない英和辞典も未だに多いのですが、新聞やニュースで取り上げられる同表現は、「他者を引きつける力」あるいは「組織をまとめて結束させる力」など比喩的な意味で使われることも多く、辞書の編纂にコーパスを活用することで、客観的な見地から意味や用例などの改善点が把握でき、反映させていくことができます。昔は改訂に20年かかる辞書もありましたが、現在ではコーパスを活用することで(編纂・改訂方針にもよりますが)2、3年という短いスパンで時代の変化に対応する改訂も可能となってきています。

ホスピタリティ英語を身につける

生きた英語の宝庫ともいえるコーパスは、英語教育や教材開発にも大いに活用されています。たとえばコーパスを使って日本人が誤りやすい英語の文法やコロケーション(共起関係)などを数値化して把握した上で、その弱点に対応した学習教材の開発を行うことも可能です。私が担当するいくつかの専門授業においても、必要に応じてコーパスのデータ解析の結果を活用し、状況に合わせた表現・用法の効果的な使い分けなど、実際のコミュニケーションに役立つ知識やスキルを分かりやすく教えています。

また、社会で役立つ専門英語教材の開発も行っています。例えば、グローバル・コミュニケーション学部には、航空会社、ホテル、テーマパークなどホスピタリティ業界を志望する学生が数多くおり、専門英語の一つとしてホスピタリティ英語の学習ニーズが高まっていました。そこで、ホスピタリティ関連企業の協力も仰ぎつつ、機内アナウンスやホテルでのテーブル・マナー、アトラクションの案内文などで使われる英語表現も地道に収集することで、実際に業務に携わる際に使用している英語表現とお客様が目や耳に触れる英語表現の双方を言語資料とし、ホスピタリティ業界をめざす学生をターゲットにした英語教材をつくりました。現在、専門科目のテキストとして活用し、学生はこの教材を用いてホスピタリティ業界に特化した英語コミュニケーション能力を磨いています。

さらに、本学部ではこのような専門的な英語力と同時に、実践的なコミュニケーション能力を身につけて即戦力として活躍できる人材の育成を行っています。神戸という国際色豊かな土地柄を利用し、神戸近隣のホテルや空港、テーマパークと連携を取って外国語を使用した研修などを取り入れるほか、航空会社との教育連携協定により、将来キャビンアテンダントやグランドスタッフをめざす学生のために学内講座や神戸空港での実務体験も用意しています。

動画制作で育むコミュニケーション能力

グローバル・コミュニケーション能力を磨くために私のゼミで取り組んでいるのが、英語でのドラマ制作です。脚本作りからキャスト、撮影、編集、試写会までの全てを学生が手がける協同学習型アクティブラーニングとして実施しています。

2・3年次は入門編として、日本のテレビドラマを題材に、プロットの再構成、セリフの日英翻訳、演技実践、編集などを行います。この協同学習のプロセスを通じて、生きた英語を肌で感じ取り、グローバル人材に必要なコミュニケーション能力を身につけてもらうのが狙いです。英語のセリフ回しからは、話し言葉特有の英語表現を学ぶことができます。また、(まだまだ難しい部分もありますが)英語特有のリズム・イントネーションを身につけることができ、英語表現にふさわしい演技のトレーニングは表情や身ぶり手ぶりなど言語以外で意思を伝える方法を体得することにつながります。英語による演技は、英語圏の人々に意図や気持ちを十分に伝えられるコミュニケーション能力の習得にとってよい訓練になると感じています。

そのうえで4年次には、卒業プロジェクトとなるオリジナル作品に挑戦しています。2018年度には、地域社会と連携し社会貢献をテーマの一つに掲げ、ゼミ生の実話を参考にして短編映画「GOOD LACK」を制作しました。学生の発案でカンヌ国際映画祭出品を目標に掲げ、神戸市を拠点に活躍しカンヌ映画祭の特徴をよく知っている映画監督に助言を仰ぎました。また、このプロジェクトは「県政150周年記念県民連携事業」にも採択されました。神戸市内のさまざまな場所で撮影を行い、昨今「Kobe Fish」として海外からも注目を集める特産品「いかなご」をモチーフとして使うなど、兵庫・神戸PRも目的に作品制作を行いました。撮影や編集、挿入音楽などプロの方々にもご協力頂き、クオリティを求めて完成した本作品は、カンヌ国際映画祭のほか中之島映画祭にも出品しました。

今回の作品では、ドラマのリアルさを追求するためにあえて日本語で制作し、英語の字幕を付けました。日本語独特の表現をどのようにすれば英語で効果的に伝えることができるか、学生たちは大いに試行錯誤しました。日本語では遠回しに伝える場面でも英語だと単刀直入に伝えることも多く、これまでに経験した英語ドラマ制作と今回の日本語ドラマ制作の双方の活動を通して、日本語と英語によるコミュニケーション方法の違いや、その違いを最小化するための演技・翻訳活動からさまざまな気づきを得ることができました。また、撮影協力や情報提供など、地域で活躍する幅広い分野の方々と交流できたことは、学生たちに通常の授業からでは得られない大きな成長をもたらしました。今後も、学生を中心とした映画祭への出品を目標に、動画制作を続けていこうと考えています。

真のグローバル人材とは、自国と他国の文化に精通し、異文化の人たちと意思を通じ合わせて自国の文化・慣習の素晴らしさを伝えることができる人間であると私は考えています。言語や文化の知識を深める学修とともに、地域社会と触れ合いながら幅広い経験を積むことのできるフィールドを用意して、グローバル人材にふさわしいコミュニケーション能力を育成したいと思っています。

Focus on lab
―研究室レポート―

仁科ゼミでは、学部の学びやゼミ活動ともかかわりの深いグローバル関連、アート関連のボランティア活動に全員が参加。幅広い経験を通じて視野を広げ、社会を見る目や問題意識を養っています。神戸に映像作品のロケを誘致する神戸フィルムオフィスとタイアップして、大道具やエキストラなど映像制作サポートを経験。また、音楽・映画・IT・食・ファッション・子ども・アニメといったさまざまなジャンルを掛け合わせたイベントを多数実施する参加型クロスメディアフェスティバル「078」、国内外の子どもや女性の問題に取り組むプロジェクトやグループへの資金を集める「神戸グローバルチャリティフェスティバル」などのイベント運営のサポート活動も行っています。

プロフィール

2005年 英国エクセター大学大学院現代言語学部修士課程 修了
2007年 英国バーミンガム大学大学院文学部修士課程 修了
2010年 英国バーミンガム大学大学院文学部博士課程 修了
     応用言語学博士(2010年 英国バーミンガム大学)
2011年4月~2012年3月 立命館大学言語教育センター 嘱託講師
2012年4月~2015年3月 明治学院大学教養教育センター 専任講師
(2014年8月~2015年12月 米国ホープカレッジ客員教授)
2015年4月~ 神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学部 准教授

主な研究課題

  • コーパスを活用した言語教育、ならびに翻訳研究
  • 計量的観点からみた言語分析、ならびに辞書記述の改善
  • 英語教材の開発とその教育的効果
  • 広義の意味におけるコミュニケーション
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