2019年1月 外国人留学生と企業を結ぶ実践的な日本語・キャリア教育in Focus

神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 外国人留学生と企業を結ぶ実践的な日本語・キャリア教育 栗原 由加 Yuka Kurihara グローバル・コミュニケーション学部 准教授
神戸学院大学のSocial in ~地域社会とともに~ 外国人留学生と企業を結ぶ実践的な日本語・キャリア教育 栗原 由加 Yuka Kurihara グローバル・コミュニケーション学部 准教授

神戸学院大学のグローバル・コミュニケーション学部は、語学力とコミュニケーション力を併せ持った人材育成を目指して2015年に開設されました。私は、その中の日本語コース立ち上げにお声がけいただき、留学生の教育に携わってきました。学部開設以来、目指してきたのは、外国人が日本で学び、日本企業に採用され、働き続けることができる仕組みを作ることです。2018年12月に外国人材の受け入れ拡大が決定し、現在、外国人材に対する社会の関心が急速に高まっていると感じます。外国人材の受け入れがスムーズにできる社会を目指し、日々研究と活動を行っています。

日本語教育とキャリア教育

日本語コースで行っている留学生教育の最大の特色は、日本語教育とキャリア教育を融合させた総合的な人材育成を行なっている点にあります。私の経歴は、大学教員としては、やや異色かもしれません。大学卒業後、一般財団法人に11年間勤務した後に転職し、その後は日本語教育に携わっています。2007年に始動した経済産業省と文部科学省による「アジア人財資金構想」で、日本での就職を目指す留学生の日本語教育に関わったことが契機となり、留学生が日本で働くために役立つような、日本語教育とキャリア教育を融合させたスタイルの留学生教育の開発と実践を目指すようになりました。

留学生は大学で何を学ぶのか

外国人材活用の大きな課題の一つに、就職後の離職率の高さがあります。その解決方法の一つが大学の学部で留学生教育を行うことです。そのメリットは、4年間の在学中に、十分な時間をかけて、社会に出るまでの準備を段階的に行えることです。人材育成とは時間と労力のかかる大変なものですが、対象が外国人材となると、その育成には、より多くの分野の方々の協力と連携が必要となります。日本語コースでは、最初の二年間に、時間をかけて少人数クラスでの日本語教育を行いますが、その際に大切にしているのは、学生間、学生と教員、教員間のコミュニケーションと信頼関係です。異文化を理解し身につけるのは、楽しいことばかりではなく、また経験や時間を必要とすることです。教科書から知識を学ぶだけでは、異文化適応力は身につきません。様々な国籍の学生や教員との人間関係の中での体験を経て、「異文化での生活に慣れていく」というプロセスを大切にしています。

そして、4年間の大学生活の中で、最大の山場となるのが、3年次前期に全員が参加する2か月間の企業インターンシップです。1期生、2期生の学生は、1人あたり3か所の企業にお世話になりました。インターンシップを通して、学生は初めて教員以外の社会人の指導を受けます。インターンシップ中は教員も受け入れ企業を訪問し、指導者からの評価や要望を伺いますが、日本語で日常会話ができる学生でも、現場ではコミュニケーションがうまくとれないことも多く、学生も受け入れてくださる企業も大変です。ところが、2か月のインターンシップを終えると、学生は協調性や主体性、日本で働く姿勢を学び、別人のように成長します。現在、留学生のインターンシップを受け入れてくださる企業は少しずつ増えており、今後採用ルールが変更されることを見据えて、インターンシップの位置づけも変わりつつあります。その効果的な実施方法については今後も研究が必要ですが、この仕組みを学生、企業の双方にとって価値あるものにできるよう、工夫と努力を続けていかなければならないと考えています。

外国人材と企業の双方にメリットを:漢字教育と企業交流会

研究と活動を通じて、常に念頭に置いているのは「外国人材と企業の双方にメリット」のある社会の仕組みをつくることです。それは、外国人材にとっては、日本で働きやすい仕組み、また企業にとっては、外国人材を採用しやすく、活用しやすい仕組みです。そのために大学は何ができるのかを、我々は考えていく必要があります。そのための取組みを二つ紹介させていただきます。

まず、外国人材のための「脱落させない日本語教育」をテーマにした活動です。外国人が日本で働くうえで、企業側も感じている課題の一つに「漢字がわからない」ということがあります。たとえば、製造現場で働くには「安全」や「危険」など、絶対に読めなければならない漢字がありますが、非漢字圏の国々から来た外国人にとって、漢字を覚えるのはとても難しいことです。そして働きながら漢字の学習を継続するのは、さらに難しいことです。そのため、漢字を無理なく学べるワークブックを他大学の先生方とともに開発しています。入社後も外国人材を継続的にサポートできる日本語教育を展開していく予定です。

もうひとつは、2017年から始めた「グローバル人材&企業交流会 in 神戸学院大学」です。この交流会では、2年次生以上の学生が企業の方とコミュニケーションをはかる機会を設け、学生が仕事内容について企業の方に質問したり、ディスカッションするなど、活発に交流しています。積極的に留学生を採用している企業も多く、学生は交流会をきっかけに参加企業から内定をいただくこともあります。企業の方にとっては、このような交流会に参加することが、「外国人を採用したいが適した人材が見つからない」という課題解決の糸口になるかもしれません。

様々な活動を通して目指しているのは、外国人材の受け入れが、よりスムーズにできる社会をつくることです。そのために「大学、企業、日本語学校、地域が連携する大きな枠組み」を作ることが私の目標です。現在、少しずつ賛同してくださる企業が増えつつあります。今後、より多くの方々や企業と協働できるよう、研究と活動を続けていきたいと考えています。

Focus on lab
―研究室レポート―

私の研究室では、留学生の就職に関する調査、活動、サポートを行っていますが、「学生が出入り自由」なところに特色があります。日本語コースは「教員全員で全学生を指導する」方針を取っており、学生は半年ごとに所属したい研究室を選びなおすことができます。大学生が在学中に進路について迷うのは当たり前のことで、進路希望は何度も変わります。日本での就職に関心を持った学生が、必要だと思ったそのときに、学んだりサポートを受けたりできることが大切だと考えています。

プロフィール

1995年 東京外国語大学外国語学部英米語学科 卒業
1995年~2006年 日本品質保証機構
2006年 大阪外国語大学大学院言語社会研究科国際言語社会専攻日本コース 博士前期課程 修了
2006年~2014年 京都大学国際交流センター 非常勤講師
2012年 大阪大学大学院言語社会研究科言語社会専攻博士後期課程 修了(言語文化学博士)
2012年~2014年 関西学院大学国際学部 非常勤講師
2012年~2015年 大阪大学外国語学部外国語学科 非常勤講師
2013年~2014年 同志社大学グローバル・コミュニケーション学部グローバル・コミュニケーション学科 非常勤講師
2014年~ 神戸学院大学共通教育センター 准教授
2015年~ 神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学部 准教授

主な研究課題

  • 現代日本語の受身文、属性表現
  • 留学生のビジネス日本語教育
  • 大学生、大学院生のキャリアデザイン
  • 地域社会、職場における多文化共生
  • 日本語学習者の漢字教育
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