2012年9月
目指すのは株主・投資者利益の保護!
会社法と金融商品取引法による訴訟を分析
「このところ著名な会社の経営者などによる不祥事や違法行為が相次いでいます。それに対して株主・投資者は、どのような場合に、どこまで経営者の責任を追及できるのか。株主・投資者の利益保護という視点で研究を続けています」と宮崎裕介講師。この研究テーマは、2012年度・科学研究費補助金(文科省)の対象として採択され、4月から2年間の研究がスタートしている。
宮崎講師の専門分野は会社法と金融商品取引法。「会社法は、会社を取り巻く利害関係者(株主、経営者、債権者その他)の利害を調整する法律。今は大学生でも株式を購入している人が多いようですが、一方の金融商品取引法は、そういった株式を購入した人全般を保護し、株式市場に対する信頼を高めるための法律です」。
研究対象は、会社法による「株主代表訴訟」と、金融商品取引法による「損害賠償請求訴訟」。どちらも基本的に株式を購入した人たちが起こす訴訟だが、「株主代表訴訟は、会社に生じた損害を会社のために回復しようとして提起するもの。株主の個人的な損害を必ずしも回復できるものではありません。対する金商法による損害賠償請求訴訟は、株主が個人的な損害を回復するために提起しやすいことから、直接的な責任追及には有用な制度。現時点では、株主に対する個人的救済は損害賠償請求訴訟に任せざるを得ないのではないかと考えています」。
経営責任を追及する日米の裁判例を比較
宮崎講師は、実際に起きたいろいろな不祥事や違法行為に関する訴訟の裁判例を、事後的に分類し分析している。「日本だけでなく、アメリカの裁判例についても調査しています。アメリカでは株主が直接、会社経営者を責任追及することができる直接訴訟の制度が認められています。誰が損害を被ったか、誰が救済を受けるべきかという二つの判断基準が満たされた場合、株主が直接救済を求めることができると言われています。日本ではどう経営者を責任追及し、株主・投資者の利益を保護していくのか。アメリカの直接訴訟の裁判例を研究することで検討しています」。
ただし、どんなケースでも必ず経営責任を追及すれば良いというわけではなく、「誰もが常に責任を追及されるとなれば経営者が萎縮してしまいます」。8月に出版された共著『判例法理 経営判断原則』(中央経済社)でも、経営者の責任を問う多くの著名な訴訟について裁判例を分析。「経営というものは先が見えず予測的な要素も含まれます。経営者がきちんとした事実調査や思慮、手続きに基づいて経営判断を行っていた場合は、例え結果が良くなくても、必ずしも責任を取らせなくても良いのではないかと考えています」。
訴訟制度を横断的に検討していきたい
宮崎講師がこの研究テーマを選んだのは、「もともと訴訟という制度に興味があったからです。また経済学部を卒業後に、ロースクール、そして博士課程へと進学したので、ビジネスという世界にも強い関心を持っていました」。株主と投資者による会社経営者に対する責任追及という研究の面白さは「時流に乗った研究ができることですね。新聞の1面に載るような社会的関心の高い事件などがすぐ研究テーマになるところです」。
今後の目標については、「会社経営者に対する責任追及の制度を総合的に見ていきたいですね。現在は株主代表訴訟、損害賠償請求訴訟、アメリカの直接訴訟、日本の証券民事訴訟といった訴訟制度を縦割りで研究しています。今後それらを横断的に分析することで、訴訟制度そのものを明らかにしていきたい。それは会社経営者にとって強い抑止力になりますし、一方で経営者を抑止しすぎないための兼ね合いのラインなども追究していきたいと思っています」。
宮崎講師は法学部で<会社法>や<商法と社会>などの科目を担当している。「授業では会社法や商法の基礎知識だけでなく、社会を構成している株式会社の仕組みや、実際の経済社会でどのような事が起きているのかを学んでほしいと思います。また法律を学ぶことで、社会の仕組みを一方向からでなく複眼的に見ることができるようになります。経営者の不祥事や違法行為なども、どのような法制度に基づいて責任追及されているのかなど、テレビや新聞のニュースを法的な視点から理解できるようになります。法律を学ぶには気合と根性が必要ですし、暗記力も問われるかも知れません。しかし今は多くの若い人が株式投資に関わっている時代。高校時代から株式投資の世界や資本市場に興味を持ってもらえるとうれしいですね」。
プロフィール
2004年、埼玉大学経済学部を卒業。06年、専修大学大学院法務研究科専門職学位課程(法科大学院)を修了。10年、神戸大学大学院法学研究科博士後期課程を単位取得退学。10年から現職。共著「判例法理 経営判断原則」(中央経済社)を12年8月に出版。法務博士(専門職)
主な研究課題
- 会社経営者に対する責任追及手段とその実効性
- 証券民事訴訟についての日米比較