2011年9月
明石と神戸を活性化 「観光まちづくり」の仕掛け人
観光で「交流人口」を増やし
町を活性化する
「旬のタコを漁師は何と呼ぶ?」「タコの雌雄の見分け方は?」「小さなアナゴを浜言葉で何と呼ぶ?」など。全国的に有名な明石ダコをはじめとした魚の生態・食文化・歴史に関する100問に答える「明石・タコ検定」。いわゆる「ご当地検定」の一つだが、このユニークな検定の起ち上げに貢献したのが、経済学部の角村正博教授。地元を中心とした地域学分野の研究・教育に力を入れており、現在の主な研究テーマは地域の活性化を目指した「観光まちづくり」。市民や企業・行政、学生などを巻きこみ、大学周辺地域の「ブランドづくり」と「人づくり」に取り組んでいる。
「もともとはカール・ポランニーという経済学者(ハンガリー出身)の経済思想について研究していました。世界中でグローバリゼーションとローカリゼーションが同時進行する昨今の経済と社会について考える中で、その応用分野として、本学が立地あるいは近接する地域の問題を研究するようになりました」と角村教授。地域活性化の柱として観光に着目している理由は、「日本経済は1990年代から約20年にわたり低迷しています。この状況を打破する方策として注目されているのが観光です。少子化が進む日本において『定住人口』を増やすことは難しいですが、観光によって『交流人口』を増やすことで経済を活性化できます。日本政府も、さまざまな政策で観光立国を推進していますが、主役となるべきはあくまで地域。地域が主体的に国内外から観光客を呼び込む取り組みが大事だと思っています」。
地元の市民・企業・行政と一体となり
「明石学」「神戸学」を推進
角村教授が地元のまちづくりに取り組むきっかけとなったのは、1995年の阪神・淡路大震災。神戸学院大学に近く、子午線の通過で有名な明石市立天文科学館の大時計(直径約6㍍)が激しい揺れのため甚大な被害を受けた。「それを本学が譲り受けたのですが、ただ明石の文化遺産として保存するのではなく、きちんと修理し、復興のシンボルとして有瀬キャンパスに設置するように強く主張しました。何としても明石の象徴を守りたかったのです」。これを機に角村教授は、まず明石のまちづくりについて、地元の人や学生と共に真剣に考えるようになったという。「まちづくりで大切なのは、地元ならではの観光資源を継続的なブランドにすること。明石は子午線の町であると同時に、魚の棚で有名な魚の町でもあり、名物の明石焼き(玉子焼き)、源氏物語(明石の巻)ゆかりの地とされる善楽寺戒光院など、観光資源は豊富。自然や歴史・文化に恵まれた城下町でもあります。それらをどう有機的につなぎ、観光まちづくりに反映させていくか。私たちはそれらの取り組みを『明石学』と名づけて研究や教育を進めています」。
また、神戸学院大学のキャンパスは神戸市のポートアイランドにもあり、角村教授は「明石学」に次いで、神戸を活性化するための「神戸学」にも取り組んでいる。たとえば、神戸にある旧居留地を研究する「神戸外国人居留地研究会」の活動に、高校生や大学生が参加するイベントを開催し「若い人たちの地域への関心を高めたい」という。
「まちづくりコーチング」で
観光資源を掘り起こし人材を育てる
神戸学院大学の地域学は、地域の歴史や伝統を学ぶだけでなく、地元に関する幅広い知識を身につけることが目的。その上で角村教授がまちづくりの重要な課題と考えているのが、人材育成だ。「まちづくりに関わっている人は発想が面白く、個人の利害を超えて活動する人が多い。また自分たちの町を誇りに思っています。問題はその顔ぶれが常に同じで広がりがないこと。まちづくりの情熱が、学生を含む若い世代に受け継がれていくことが大切です」。
そこで今、角村教授が強い関心を持ち実践しているのが「まちづくりコーチング」だという。コーチングとはコミュニケーションによって相手(=クライアント)から答えを引きだし、その人を目標達成へと導く手法のこと。「答えを持っているのは常にクライアント。まちづくりも同様で、活性化するための答えを持っているのは地元の人たちです。私はコーチングの手法によって、地元の埋もれた観光資源を掘り起こし、特に若い人たちのまちづくりへの意欲を引き出していきたい」。まずは地元の良さを認識してもらえるように「明石・神戸などの知られざる歴史・文化・産業、そして地元出身の著名人などをテーマとした講座やイベント企画などにも積極的に取り組んでいくつもり」だという。
プロフィール
1973年、神戸大学経営学部経営学科卒業。79年、同大学大学院経済学研究科博士後期課程を単位取得満期退学。1992年、神戸学院大学経済学部国際経済学科教授に就任。以後、米国コロラド州立大学客員研究員(1992~1994)、神戸学院大学学生部長(1995~1997)、神戸学院大学研究支援センター所長・国際センター所長などを歴任。明石や神戸の町をフィールドに、まちづくりの理論と実践に取り組み続けている。
主な研究課題
- 観光まちづくり
- 地域経済活性化
- 市場社会論(市場、社会、進化論)