2011年9月
地域の活性化にスポーツイベントが果たす役割を考える
現代社会にスポーツが及ぼす影響を考えるスポーツ社会学
私は、スポーツが地域社会にどのような影響を及ぼすかという、現代社会とスポーツの関わりを中心に研究を行ってきました。このスポーツ社会学という学問に出会ったのは、体育大学の学生だったころです。当時は『社会体育』と呼ばれ、大学では、市町村といった自治体レベルで地域振興のためにスポーツをどのように活用すべきか、あるいは、国が施策としてスポーツを利用した場合、それぞれの地域社会にどういった経緯で浸透していくのかなどの研究が行われていました。当時の私はそうした研究内容に非常に興味を持ち、あくまで現代社会との関わりの中でスポーツを考えていく学問であるスポーツ社会学を追究したいと考えるようになり、以後、この学問に関わってきました。
最近は、サッカー日本女子代表『なでしこジャパン』がワールドカップで優勝し、日本中の関心を集めています。選手の所属チームが出場する国内リーグ戦には、優勝前の何十倍の観客が押し寄せるなど、地域や社会を大いに盛り上げています。しかし、彼女たちの人気や注目度がこれからも続くのか、その動向を今後も注視していく必要があるでしょう。なぜなら、日本の風土を考えると地域にスポーツが根付くには、まだまだ時間がかかると考えるからです。
スポーツが地域で盛り上がるための重要な要素は勝つこと
『なでしこジャパン』の例だけでなく、社会スポーツ学の観点から考え興味を持っているのがJリーグです。地域密着をうたい、それまでプロスポーツの中心であった企業スポーツの代表であるプロ野球とは一線を画す形でスタートし、現在まで一定の人気を保持してきました。ただ、やはり、歴史のあるプロ野球と肩を並べるまでには、まだ至っていないというのが現状です。特に、ここ兵庫、神戸という土地柄は、スポーツイベントを行っても盛り上がらない、プロスポーツチームができても今一歩盛り上がりに欠けるというところがあると思います。
では、スポーツというものが地域の活性化になかなかつながっていかない兵庫や神戸という地域で、地域スポーツの定着を掲げるヴィッセル神戸のようなプロスポーツチームが、より地元の注目を集めるにはどうすればよいか。
一番効果のある方法は、今回『なでしこジャパン』が証明したように“勝てるチーム”を作ることです。リーグ戦で常に上位に位置しチャンピオンシップを争うチームになれば、注目も集まり、地域のサッカー少年たちの目標になります。この、少年たちの憧れになるということが、今後の地域におけるサッカー人口の伸長を考えれば非常に大切なことだと言えるでしょう。
イベントやスポーツは地域の絆を取り戻す最も効果的な手段
私は、人文学部人文学科と学際教育機構スポーツマネジメントユニットで教鞭を執る傍ら、県立明石公園で毎年開催されている『明石子午線どんとこいまつり』の顧問をしています。第6回から第9回まで、実行委員長を務めていました。
この『明石子午線どんとこいまつり』は2000年から始まり、今年で11回目を迎えます。“よさこい”をはじめとするダンスや盆踊りなど多彩なチームが多数参加し、練習で鍛えた踊りを披露する場となっています。地元の明石のみならず、姫路や岡山からも多くの人が訪れるなど地域の人気イベントとしてすっかり定着しています。
このイベントには、本学の学生も“よさこい”のチームを作って参加したり、ボランティアスタッフとして参加するなど、スムーズな運営や盛り上げに一役買っています。第1回の開催から10年以上が経過した今、私は研究者として、このイベントが地域にもたらした効果や影響を検証していきたいと考えています。
ここ十数年で地域社会の崩壊が進んだと言われていますが、人と人との心の交流を促すには、共通の体験、話題を作り出すことです。私は、『明石子午線どんとこいまつり』のような祭りやイベント、スポーツが、地域の絆を取り戻すために最も効果的な方法であると考えています。そうした意味でも、スポーツ社会学の研究者として、地域スポーツの行く末を見守っていきたいと考えています。
Close Up Event
学生の社会勉強の場にもなっている
『明石子午線どんとこいまつり』
『明石子午線どんとこいまつり』は毎年秋に実施され、今年は10月9日(日)に開催予定です。毎年、本学から30~40人の学生が運営スタッフとしてボランティアで参加し、入場者の警備や誘導を中心に舞台の司会や時間進行係などを担当しています。また、学生ボランティアが“ゴレンジャー”ならぬ『どんとこいレンジャー』になり、会場の敷地内に待機。入場者がスタンプを、5種類集めれば景品と交換するというスタンプラリーも実施しています。こうしたユニークな試みにも本学の学生が積極的に参加し、イベントを盛り上げています。
「『明石子午線どんとこいまつり』のような地域イベントのボランティア体験は、学生にとって貴重な勉強の場になります。大まかな企画や進行は大会の実行委員会で決めますが、当日の運営については学生が自主的に判断し、それぞれの役目を果たさなくてはなりません。こうした体験は、学内では決して経験することはできないため、彼らにとっては社会人になるためのよい修練の場となっていると思います」と語る、田端教授。
また、田端教授は、入学した学生に “よく学び、よく遊べ”という言葉を毎年贈っています。「真剣に遊ぶ、何かに一生懸命に取り組めば、そのときに気付かなくても何かが得られるものです。学生には、そんな心構えを持って大学生活を有意義に過ごしてほしいと思います」。