2009年12月
世界の笑顔のために自分たちができること
「神戸」にある大学として―独自の教育プログラム―
神戸学院大学の「防災・社会貢献ユニット」は、1995年に起きた阪神・淡路大震災の教訓から学ぶとともに、後世に伝えることを主な目的として開設した独自の教育プログラムで、全国の大学でも他に例がない。その社会的な意義の高さから、平成17年度の文部科学省「現代GP(現代的教育ニーズ取組支援プログラム)」に採択された。2年次から始まるプログラムで、ユニットを希望する法、経済、経営、人文学部の学生から50名を選抜。各学部の専門知識とともに、防災や危機管理、社会貢献に関する能力を身につけることができる。まさに社会のニーズに即応する実学だ。
舩木伸江講師は、この新しい教育プログラムの準備段階から関わり、現在、同ユニットで防災や危機管理教育に取り組んでいる。舩木講師は広島県の出身で被災体験はないが、大学受験の年に震災があり、神戸学院大学受験の折に神戸の被災地を目にした。
防災にかかわるきっかけとなったのは、アメリカ北アリゾナ大学大学院への留学からの帰国後、神戸市中央区にある「阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター」に震災資料専門員として勤めたことだった。震災記録収集のため、被災者の体験を一人一人聞き歩くうちに「子どもたちや若い世代の人たちにもっと知ってもらい、異なる世代や地域、異なる組織や団体の人々が互いに協力し、広く連携していくようになれば」と考えるようになった。その後、京都大学大学院に進学し、自治体間の広域連携について研究した。時を同じくして母校の神戸学院大学も、震災を体験した大学が果たすべき役割として、さまざまな防災や社会貢献活動に取り組んでいた。
「防災・社会貢献ユニット」が目指すのは、防災や防犯、危機管理担当者をはじめ、国際協力やボランティアなど社会貢献に役立つ人材の育成だ。「行政の防災担当者や消防や警察、企業の危機管理、さらにNPOやNGOで活躍するような人材はもちろん、市民の防災リーダーとなるような人材が、このユニットから巣立っていって欲しい」と舩木講師は話す。
若者の持つ力を引き出す防災教育
舩木講師は、なかでも防災の分野における学生など若者の存在を重視する。「防災においては、彼らの行動力、柔軟な思考力などは、大きな力となります。大学生であっても、たとえ中学生であっても、災害時にできることはたくさんあります」と、防災教育を通じて若者の能力を最大限に引き出したいと願う。
防災教育では「防災の何を教えるべきかと同時に、いかに伝えるべきかというアプローチもとても重要なことなのです」と話す舩木講師は、そのために様々なプログラムを企画する。
子どもたちが楽しみながら学べるようにと学生と一緒になって開発したカードゲーム式の教材「防災教育キット」もそのひとつ。これらを使って行う小中学校での出前授業も好評で、教壇には学生が立って授業をすすめる。「自分たちが学んで得た知識や経験が、すぐに社会で役立つものであることを、学生にも、子どもたちにも実感してほしいから」とその意義を話す。
また、救急インストラクターの資格を取得した学生が、神戸市内の学校や市民の方を対象に市民救命士の講習会を開催したりするなど、地域社会と密接に関わりながら、学生は体験的で実際的に能力を身につけていく。
ほかにも、防災スタンプラリーや公開シンポジウム企画、さらに新潟県中越地震の被災地の方々との交流会、昨年の中国四川大地震の視察や報告会、被災地との交流ネットワークづくりなどを企画するが、そのどれもが学生主体であり、自分たちの学びがそのまま社会貢献につながっていることを実感できる内容となっている。こういった教育手法は、舩木ゼミのみならず「防災・社会貢献ユニット」としての真骨頂でもある。
防災でつながる世界の若者たち
2008年5月に起きた中国四川大地震。舩木講師は、2年続けてゼミ生や神戸学院大学と教育提携協定を結ぶ兵庫県立舞子高校の生徒らとともに被災地に入り、視察やボランティア活動を行っている。
昨年10月、「ものやお金ではなく、自分たちらしく、できることは何か」をゼミ生と考え、千羽鶴を持っていくことにした。ゼミ生たちは他の学生や大学関係者をはじめ、協定校の舞子高校やゼミ生の母校、友だち、家族とともに、一日も早い復興を願って「一羽一願プロジェクト」を実施した。約5千羽の願いが集まった。現地の小学校では、神戸の震災復興を願った歌「しあわせ運べるように」を中国語で歌い、それを聴いて涙を浮かべる子どももいた。
今年は、震災から15年を経た神戸の経験と、今も四川を忘れずにいる自分たちの想いを伝え、現地で大歓迎を受けた。震災の教訓を伝えようとする防災意識の高まりとともに、被災経験を通じ、互いを結ぶ堅い絆が生まれつつあることを感じた。
舩木講師は、目下、2010年1月24日(日)開催の「阪神・淡路大震災と四川大地震からの教訓―国際社会の防災をリードする若者たち―」の準備に大忙しだ。兵庫県や神戸学院大学を中心とする「阪神・淡路大震災と四川大地震からの教訓」実行委員会のコーディネーターとして、「ともに被災経験をもつ日中両国の学生が交流し、防災において若者が果たす役割をともに考える場にしたい。そしてこのつながりを世界中の若い人たちと共有していくきっかけになれば、と思っています」と話す。
国境や世代といった、垣根を超えてつながる防災教育。著書『夢みる防災教育』(共著/晃洋書房)のタイトルにもあるように、舩木講師が夢みるのは、「世界の笑顔のために、自分に何ができるのかをみつけること」。舩木講師は、次代を担う若者の可能性に大きな夢を託している。
プロフィール
1999年、神戸学院大学人文学部卒業後、北アリゾナ大学大学院に進学し教育心理学専攻入学。2001年に修了(修士)。京都大学大学院情報学研究科博士後期課程に進み、2006年に単位取得退学。後に神戸学院大学学際教育機構防災・社会貢献ユニット講師として着任。他に、「阪神・淡路大震災記念人と防災未来センター」震災資料専門員、防災・社会貢献ユニットのプログラムコーディネーター、「防災教育チャレンジプラン」実行委員、「災害メモリアルKOBE」実行委員などを歴任。現在に至る。
主な研究課題
- 巨大災害時の広域連携・広域支援に関する研究
- 防災教育に関する研究
- 災害時の遺体の処置・埋火葬に関する研究
- カンボジアでの国際支援/ボランティア