―2025年年頭にあたってのご挨拶―フロントライン

地域と繫がり、「偶然」を創出し続けるために 神戸学院大学長 中村 恵

謹んで新春のお慶びを申し上げます。

年頭にあたり、昨年の大学運営の振り返りとともに、2025年3月をもって任期満了を迎えるに際して、この3年間で私が感じ、考えてきたことを皆さまにお伝えしたいと思います。

1 認証評価対応

昨年は、7年に一度の大学基準協会認証評価を受審したことが、本学にとって一番大きな出来事でした。
2023年度から始まった第3次中期行動計画を実行する中、2024年3月末に大学基準協会への「2023年度点検・評価報告書」を提出しました。 9月に受領した「大学評価結果(分科会案)」に付せられていた「質問事項」に対する検討および「回答」の作成、そして10月21日、22日に行われた実地調査と、報告書作成開始から数えれば、ほぼ1年にわたって各学部・研究科・部署には多大なるご協力・ご尽力を頂戴しました。最終の評価結果(委員会案)はこの1月中に受領する予定ですが、これまでの皆様のご協力に対して、この場を借りて改めて深い感謝の念を表したいと思います。
この認証評価への対応は、大学側にとって非常にディマンディングな作業を要請されるものではありましたが、他方私たちの教育・研究や大学運営の在り方を振り返り、改めての「反省」をする良い機会でもあったと思います。この「反省」は次期学長に引き継がせていただく所存です。

2 志願者増に向けて

私たち大学の存立の基礎は入学者の確保にあります。2024年度入試を振り返ると、大学全体の入学定員はクリアしたものの、残念ながら志願者の減少傾向は止まらず、一部の学部・学科の定員割れも継続することとなりました。厳しい入試環境に対応するため、2024年度入試から初年度学生納付金の減額をはじめ、昨年はオープンキャンパスの開催時期を変更するとともに、コンテンツも改良を加えることで、とくに8月開催分は非常に多くの高校生を迎えることができました。また、総合型選抜入試の全学部導入や入試制度の改革も進めてきました。
いつも申し上げている通り、私は神戸学院大学がもっともっと評価されるべき大学であると信じています。神戸学院大学の良さを社会、とりわけ高校生以下の若年層に伝えていくためにも、教職員の皆さんはもとより、より多くの学生を巻き込んだ展開が必要であるように感じています。
引き続き、大学構成員である皆さんの知恵と工夫、ならびにご協力をお願いする次第です。

3 真の「文理融合」を目指して

大学にとって最も大切な事業は、言うまでもなく教育を通して日本社会に、本学にとっては、とりわけ兵庫・神戸を中心として地域人材を育成することにあります。その中心である学部教育が向かう方向はさまざまに議論されています。その中でも重要な論点が「文理融合」あるいは「文理横断」教育の推進です。神戸学院大学は「文理融合型私立総合大学」を標榜していますが、その教育実態はまだまだ真の「文理融合」「文理横断」に近づいていません。しかし、社会、そして現場はそれを強く要請しているように思えます。なぜなら、複雑な現代社会の課題解決のためには、まさにそうした「文理融合」の知恵が求められているからです。
私たちの誇るべき文理融合教育「IPE(専門職連携教育)」の志と精神は、決して医療・福祉現場だけのことではないと思います。データサイエンス教育の学部間共有や、共通教育の位置づけの再検討、そして学部を越えた科目履修の可能性を追求することが真の「文理融合」教育実現のために必要です。

4 「地域と繫がる」・・・社会人教育というマーケット

2026年に本学は大学創立60周年を迎えます。
この60年を振り返っても、また今後を展望する上においても、その方針はすでに定まっています。皆さんとともに長期ビジョンで掲げたように、そしてグランドミッションの基底にも流れている通り、「地域と繫がる」大学であり続けることです。
本学も参画した「一般社団法人大学都市神戸産官学プラットフォーム」は昨年本格的な活動を開始し、本学はリカレント教育「高齢社会を支える医療・介護人材育成プログラム」のリーダー校としてその企画・運営を担い、多くの医療・介護事業所代表者や管理職の方々の注目を集めました。
また、リカレント教育として2023年度から始まった「楽農アカデミー」は、神戸市の「ネクスト・ファーマー制度」を活用し、JA兵庫六甲による農地提供および実地研修へのご協力のもと、本学経営学部、現代社会学部、栄養学部の教員が講師として登壇するこのプログラムは、同制度を活用した他のプログラムよりも多い履修者数を誇っています。
地域社会人対象のこうしたプログラムは、そのニーズに的確に沿えることができれば、大学の新たな地平を切り開くことができるだろうことを示唆しているように思えます。18歳人口が減少する中、大学そして大学院の新たなマーケットとしての社会人対象プログラムの開発と、それに合わせた大学とりわけ大学院の変革が求められていると思います。

5 震災30年

2024年の始まりは、突然襲った能登半島地震からでした。在学生の中には北陸出身者も大勢おり、その安否が気遣われ、その確認作業の中、最大の被害を被った地域の一つである珠洲市出身の学生から「無事です」という返信をもらった時には、心から安心したことをまざまざと思い出します。
今年1月17日、私たちは阪神・淡路大震災から30年を迎えます。現在、兵庫県による震災30年記念事業の一環として、大学コンソーシアムひょうご神戸の取りまとめの下、神戸学院大学生を含む兵庫県の大学生たちが、震災の記憶と経験を若者に引き継ぐための動画制作に取り組んでいます。
日本は、巨大規模であることが想定されている「南海トラフ地震」への備えが求められています。阪神・淡路大震災を経験した神戸学院大学では、今まで多くの学生および教職員による被災地支援や防災・減災のための社会貢献・地域貢献および産学連携活動が行われてきました。こうした営みは、これからも神戸学院大学のアイデンティティの一つとして学生、教職員一体となって継続していくことがとても大切であると思います。

6 大学創立60周年に向けて

大学創立60周年の2026年竣工予定の有瀬キャンパス1号館も、その建設が本格化しています。また、それに合わせて、学生のニーズに適合した厚生施設の在り方の検討も現在進めています。学生がより多く集い、「計画的な偶然」を体験できる機会をより多く提供することが本学の使命であると思います。そのためにも、最も基礎的な場である教育の現場がより生き生きとしていることが求められているとも言えます。
どうか、皆さんの創意工夫を集結して、新たな「偶然」を作り出すことにご尽力いただければ幸いです。

2025年4月から備酒伸彦新学長の下での大学運営が始まります。2026年創立60周年を控える神戸学院大学のさらなる発展のためにも、構成員皆さんのご理解、ご支援ならびにご協力を心よりお願い申し上げます。

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