コラボレーション03《本学×企業・3》フロントライン

シリーズ:プロジェクトK ~連携で生まれる新しい教育研究のかたち

連携がもたらす人々の健康と生活につながる研究活動

コラボレーション03 《本学×企業・3》

抗血栓作用のある食物の調査研究を行い
トップランク3品種を“健康ジャガイモ”として販売

初冬に収穫する健康ジャガイモの「ニシユタカ」の栽培風景
初冬に収穫する健康ジャガイモの
「ニシユタカ」の栽培風景

心筋梗塞や脳卒中、認知症などの生活習慣病を引き起こす大きな要因である血栓。栄養学部生理学研究室の山本順一郎教授の研究チームでは、この血栓の形成を防ぐ食材の評価研究を行っています。そうした研究活動のなかで、抗血栓作用の高いジャガイモのトップランク3品種を特定。2006年よりJA兵庫六甲と連携し、神戸市西区岩岡町の3農家による試験栽培を開始しました。翌年、初夏に収穫する春ジャガイモで、男爵系の「とうや」、メークイン系の「北海黄金」、赤じゃが系の「スタールビー」を“ほっこりトリオ”と名付け、「健康ジャガイモ」としてJAの直売場や一部量販店で販売。“ほっこりゴールド”は、神戸市の小学校174校の給食にも採用されています。現在、年間通じての収穫を目指し、秋に植えて冬に収穫する品種から4品種を選抜して試験栽培を開始。今年、このなかから、ニシユタカという品種を小学校の給食に試験的に供給する予定にしています。

研究室だけではできなかった事業を
外部機関と連携することで可能に

栄養学部
山本 順一郎 教授

栄養学部 山本 順一郎 教授

私たちの研究室では、イチゴやリンゴ、ジャガイモなどの丸ごとの抗血栓作用を測定し、その作用の高い品種を選定する作業を行ってきました。そのなかで、JA兵庫六甲と、地元・岩岡町の農家の方々にも協力していただき、抗血栓作用の高いジャガイモの量産化を目指して共同で取り組んだのが「健康ジャガイモ」の事業です。目的は、学生の教育に生かされることはもちろん、研究成果を形として世に出すということです。ただ、私たちの研究室で行われる成果は、栽培や販売を行ってくれる組織がないと、成果の社会還元は果たされません。本学の方針である地域社会への知的財産の還元は、それぞれの役割分担がうまくできて初めて達成されます。そういった意味では、単なる研究に終始せずJA兵庫六甲や農家の方々の協力を得て、“健康ジャガイモ”という形で一般の方々の目に触れることができたことは大きな成果だと思います。現在は、新しく淡路産タマネギや愛媛産温州みかんといった、食材の抗血栓作用を測定しているところです。ゆくゆくは、抗血栓性食材だけでなく、有効成分の特定にも着手していきたいと思っています。また今後も、私たちの研究に関心を思っていただける企業と連携し、人々の健康に寄与できるような事業を実現させたいと考えています。本学栄養学部の学生、あるいは、本学を目指している学生諸君の協力を得て、抗血栓食を発展させるとともに、これを契機に健康に関心を持つ学生諸君の活躍を願っています。

「健康ジャガイモ」の本格的な普及を目指し
まずは小学校給食の充実を

兵庫六甲農業協同組合(JA兵庫六甲) 相談員
猪島 嗣公 さん

兵庫六甲農業協同組合(JA兵庫六甲) 相談員 猪島 嗣公 さん

“健康ジャガイモ”事業は、2006年に農家の女性3名の方に試験栽培していただきスタートしました。その後、事業に参加する農家も増えて、今年は29の農家によって作付け総面積1.5ヘクタールの畑で各品種が栽培されています。当初の懸念材料としては、果たして「健康ジャガイモ」に選定されている品種が岩岡町の風土に適しているかということでした。試験栽培の結果が良好だったことから、自信を持って他の農家に勧めることができ、参加数が増えたのだと思います。現在は、「健康ジャガイモ」を神戸市内の小学校に給食の食材として供給していますが、供給できる絶対量がまだまだ足りないのが現状です。作物はその年の天候にも大きく影響されるため、年によって収穫数に大きなばらつきが発生します。さらに作付け面積を拡充し、いかに安定的な生産量を確保するのかが当面の課題です。大学の研究室と組んで事業展開を行ったのは、JA兵庫六甲では今回が初めてです。こうした取り組みのおかげで、高齢者の方から若い方まで、農家の方々が世代を超えて連携できたことが一番の収穫だったと思います。まずは小学校の給食に「健康ジャガイモ」を定着させ、将来的には本格的に量販店で販売し、健康志向の強い方々にアピールできるようになればと考えています。

農家で協力して「健康ジャガイモ」の生産を増やし
食育や地元農業の活性化を図りたい

岩岡健康じゃがいも部会会長
安福 元章 さん

岩岡健康じゃがいも部会会長 安福 元章 さん

私はこの「健康ジャガイモ」の事業で、試験栽培の翌年の2007年から栽培農家のグループに参加しています。ジャガイモに関しては、市場に出すほどの量を栽培するのは今回が初めてでした。販売を見据えて生産量をあげようとすると、なるべく多くの農家に参加してもらう必要があります。また、すべてを手作業で行うことは大変な労力がかかるため、ジャガイモを掘り起こすための機械なども購入しなければなりません。今回の場合は、健康に役立つ機能性の高いジャガイモを農家が共同で生産を行うということで、JA兵庫六甲だけでなく神戸市にも事業に協力してもらうことができました。そのため、機械の購入も可能になり栽培面積も増やしていくことができたのです。しかし、いざ収穫して小学校に供給すると、調理師の方から大きさや形の規格を合わせてもらわないと調理がしにくいなど、注文もいくつかありました。そうした、供給先と私たち生産者の認識とのギャップを少しでも解消するために、実際に調理師の方に畑に来ていただいて芋掘り体験をしていただくなどの交流を図っています。私たち生産農家は、「健康ジャガイモ」を食育の観点から、もっと地元の方に認知してもらえるよう広めていきたいと考えています。そのためにも、この事業を軌道に乗せて、地元農業の活性化の推進に役立てたいと思っています。

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