コラボレーション01《本学×企業・1》フロントライン

シリーズ:プロジェクトK ~連携で生まれる新しい教育研究のかたち

連携がもたらす人々の健康と生活につながる研究活動

コラボレーション01 《本学×企業・1》

牛乳成分でお肌を健やかに
美容と健康に効果のある高機能素材の開発に参加

9月に神戸国際展示場で開催された「国際フロンティア産業メッセ‘09」で研究成果を発表する岡本教授
9月に神戸国際展示場で開催された
「国際フロンティア産業メッセ‘09」で
研究成果を発表する岡本教授

現在、生活習慣病の予防に効果的な成分として脚光を浴びている「コエンザイムQ10」。また、バターを製造する過程で発生する水分「バターミルク」に含まれ、同じく肌の保湿効果や抗酸化作用を持つといわれる「乳脂肪球膜(MFGM)」。この、コエンザイムQ10とMFGMとを組み合わせた機能性素材が、乳製品の製造メーカーであるよつ葉乳業と、環境にやさしい各種製剤などを開発している片山化学工業研究所の共同研究によって開発されました。このプロジェクトは、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の委託事業として事業化され、本学薬学部の岡本正志教授が参加。水に溶けにくく生体への消化管への吸収性が低いといわれる、コエンザイムQ10とMFGMの血液への移行を高める実験を行い、新素材の開発に貢献しました。今回精製された機能性素材は、サプリメントや高齢者向けのドライフーズなど、美容や健康に役立つ高機能食品などへの利用が期待されています。

大学と企業が連携して事業を行うことで
研究成果を社会に還元し教育の質の向上を図る

薬学部 社会薬学部門 生化学研究室
岡本 正志 教授

薬学部 社会薬学部門 生化学研究室 岡本 正志 教授

私はこれまで、コエンザイムQ10の代謝性強心剤としての医療品の効能効果と、健康食品(サプリメント)としての生活習慣病予防の有効性を科学的に明らかにしようと研究に携わってきました。今回の事業では、よつ葉乳業から提供された機能性素材をコエンザイムQ10と組み合わせて、より高機能な性質を持つ素材を開発できないかということで、片山化学工業研究所を通して本学薬学部に共同研究の依頼があり実現しました。国の外郭団体から予算をいただき、4年間という研究期間を経て製品化にまで至ることができて満足しています。私自身は、薬学という学問の性質上、研究成果が何らかの形となって世に出て、人々の健康に役に立つことが最終的な目標であると考えています。そうした意味では、今回の事業は非常に意義があったのではないでしょうか。一研究者としては、短期間のなかできちんと結果を出すという、利潤を追求する企業の姿勢を学べたことも勉強になりました。大学教育の第一の目的は、学生に適切な教育を施し、また、教員の後進を育てることにあります。今回の共同事業のように、企業の研究者が本学の研究室を訪れることで、学生や教員が社会との接点を持つことができます。技術や知識だけではなく、社会常識も身に付ける絶好の機会であると言えるのです。ポートアイランドは、医療産業都市・神戸の研究拠点として医療機関や研究所が多く集まっている場所です。私は、そうした地域に身を置く大学の研究者として、今後産学連携をさらに進めていく必要があると思っています。私たちだけではできないことを、得意分野の異なる外部組織同士がお互いに補完し合うことで、1+1が2ではなく3になる。産学連携事業は、そんな可能性を秘めているのです。着実な成果を残すためにもあまり背伸びせず、自らの専門知識や技術を提供し、さまざまな企業と連携することで新たな可能性を追求したいと思っています。

異なる分野の専門家がうまく連携することで
20年来あたためていたアイデアが結実

株式会社片山化学工業研究所
開発事業部 開発グループ 特命担当
川口 芳広 主席研究員

株式会社片山化学工業研究所 開発事業部 開発グループ 特命担当 川口 芳広 主席研究員

私たちの企業は、環境や人にやさしい製品づくりを目指しています。今回の事業の場合も、牛乳由来の天然乳化剤であるMFGMを利用して、人体に対する安全・安心を考え機能性素材の開発を進めました。そもそも、牛乳由来の素材を利用するアイデア自体は、20年前からあたためていたものです。ただ、私たちの企業は原料となる牛乳を持たず、また、牛乳からMFGMを精製する技術も持っていなかったため、以前からお付き合いのあったよつ葉乳業に協力を仰ぐことになりました。その際に、MFGMとともにコエンザイムQ10を組み合わす構想を持っていたこともあり、神戸学院大学薬学部の福森義信教授に相談したのです。その際に、コエンザイムQ10研究の第一人者である岡本教授を紹介いただき、国の外郭団体の委託事業ということで予算も付いてプロジェクトがスタートしました。実際の研究開発が始まったのは2006年のことです。こうした大きなプランを動かす場合、やはり、研究資金の問題が常についてまわります。今回の場合は、公的資金の援助によって研究開発予算のめどがついたこと、異なる分野の当事者間の目的が合致しお互いのノウハウをうまく利用できたことが、製品化技術を確立できた大きな要因といってよいでしょう。私たちの会社は予防医学の見地から、今後も、サプリメントのような機能性食品や、生活習慣病を防ぐために利用可能な機能性素材を探索していきたいと思っています。

大学の専門性と第三者性という特性の力を借り
企業だけでは不可能な機能性物質の開発を実現

よつ葉乳業株式会社中央研究所
元島 英雅 研究部長

よつ葉乳業株式会社中央研究所 元島 英雅 研究部長

今回の研究は、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構が平成18年度に公募した「民間実用化研究促進事業」に、私たちが「乳製品副産物からの次世代型機能性素材の分画生産技術開発」とのテーマで応募したのが始まりです。研究では、牛乳中に微量含まれる乳脂肪球膜(MFGM)を効率良く分離する技術を開発し、商品化するのが目標でした。MFGMは以前から、親油性の機能性物質を乳化する力が強く、吸収性も促進することが知られていました。しかし、これまでは、MFGMを経済的に生産する方法が開発されておらず商品化がされていませんでした。今回の事業では、私たちがこのMFGMを効率的に分離する技術を開発。そして、その素材としての基本的な機能性を調査し、片山化学工業研究所がその独自の商品開発能力を生かして具体的な商品に育て、岡本教授がその中で最も重要な、コエンザイムQ10などの機能性物質のMFGMによる吸収促進効果を検証する。3者がそういった役割を担い実施されました。このような事業に大学に参画していただく一番のメリットは、大学が有する専門性と第三者性にあると思います。専門性においては、その道一筋の専門家が評価するというのが一番の早道であり、そのアドバイスをいただいて改良などの工夫が可能になります。同じことを企業でやろうとするとまず、そのような人材を育てなければなりません。また、企業内だけでデータをとっても、信用されにくいという面があり、大学での厳密な評価は機能性素材においては特に重要だと思います。大学によって測定されたデータが審査制度のある学術雑誌に投稿されて、はじめて客観的事実として認知され、消費者から見ても長い間信頼されるデータになるのではないでしょうか。今後は、MFGMの美肌効果の機能性などについて学術発表することで、MFGMの認知度を高めていく予定です。この美肌効果と吸収促進効果を基軸として、MFGMを利用したさまざまな機能性食品、例えば「食べる美肌食品」などの実現を図っていきたいと考えています。

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