総合リハビリテーション学部長 西林 保朗
総合リハビリテーション学部長 西林 保朗
時代に呼応できてこその総合リハビリテーション
― ストレス社会・うつの時代といわれる今こそ、我々の成長がものをいう!
新年あけましておめでとうございます。
人はそんなに単純なものでもないし、あっけらかんともしていません。どんな時代でも、いくつになっても飾りたいものです。もちろん悩みも同じことです。ストレスやうつは仮面でのカモフラージュが得意です。ウルトラマンなら“シュワッチ!”で一件落着と行くところ、検査所見や身体所見に乏しい「痛み」の仮面が大好きなようで困りものです。「何なんだ?」と思案していると、体中どこにでも、すぐに我がもの顔で住みついて、慢性疼痛に変身してしまいます。仲間も多く、悪だくみする暴走族のようなものです。一家の名前は世間では聞きなれない中枢性過敏症候群といいます。オリジナルメンバーは緊張性頭痛症候群、過敏性腸症候群、原発性線維筋痛症、そしてなんと原発性月経困難症までもが加わっています。今や勢力拡大著しく全国制覇の勢いです。ラインナップを紹介すれば「あれもか」「これもだったのか」と驚くこと請け合いですが、詳述すればきりがなく、学術論文になってしまいますので、結論へと急ぐことにしましょう。といっても「腰痛」や「肩こり」、その他多くの神経痛も親戚筋に当たることは伝えておかなければならないでしょう。腰痛と肩こりは、国民の健康被害に関する訴えのダントツの1位と2位だからです。
中枢性疼痛である慢性疼痛は全人的ケアが必要な領域で、利用者・患者とその家族を中心に、保健・医療・福祉連携というチームワークが大切です。すなわち、それぞれのプロの領域が勝手気ままに仕事をしているだけでは、利用者・患者に余計にストレスがかかります。有難迷惑でこそあれ、寛解・治癒は遠のき、かえって悪化しかねません。医療法上は医師が中心ですが、多忙で他に多くの関心ごとを持つ医師は適切でないようです。活躍するのは、今までは“白衣の天使”的存在の看護師と身体的心地よさをもたらせてくれる理学療法士でした。これからは、コーディネートのプロである社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、そして日常生活動作能力アップを通じてQOL(Quality of Life 生活の質)を高めるアシスト役の作業療法士でしょう。
コーディネートだけではもちろん不十分です。慢性疼痛や中枢性過敏症候群に共通して効果的な治療法が分かっています。全人的にアプローチすることと、疾病の説明と予後の良好なことを伝えることはことさらに重要です。これは、利用者・患者の訴えを共感的態度で傾聴し、リスクファクターを正確に抽出するところから始まります。実際に行う治療で、適切な薬物治療以外に効果ありとされるものはエクササイズ、物理療法、そして、認知行動療法なのです。そうです、総合リハビリテーションの得意分野ばかりです。しかしこれらは、今までの型にはまった福祉やリハビリテーションを漫然と提供しているだけでは不十分であることをも示しています。
利用者・患者の命と対峙する我々は政府の最重要政策でいわれずとも、「学び直し」と「生涯学習」を実践しなければなりません。また、義務教育や高校での教育が不十分になったせいでしょう、学力低下の善後策としての大学での学士力向上が急務とされています。教官が学生の勉学への取り組みに対して強い姿勢で臨まなければならないことは言を待ちません。しかし、教官自らが学び高める姿を示すことがより大切だと信じています。そしてそれにもまして実践すべきことは、自分を律して規律やマナーを守る姿を見てもらうことでしょう。
厳しい内容をめでたい新年の挨拶としてしまいましたが、世界が、日本が、大学が、保健・医療・福祉の領域が、待ったなしの“チェィンジ”を求めていることは衆目の一致するところです。各自の能力を高めることがこれらすべての問題解決に直結し、ひいてはすべての人たちの幸せにつながると信じていますので、新年を寿ぎ、贈る言葉とさせていただきます。