2008年2月 神戸学院大学大学院 人間文化学研究科心理学専攻いよいよ開設フロントライン

【特別座談会】 地域社会に貢献する大学院教育を目指して

大学院人間文化学研究科心理学専攻とは

高度職業専門人と研究者、双方を養成する教育を目指して

清水教授

清水教授:一般的に、大学院の心理学系といいますと、基礎系や臨床系、応用系などそれぞれの領域を専門に研究している教員が多いと思います。しかし、今回開設される本学心理学専攻の場合は、基本的には全員基礎的な研究もし、かつ臨床応用分野の研究も手掛けています。加えて、教員同士の結びつきが大変強い。これからの心理学教育は、心理学に直接かかわる機関だけでなく、医療現場や法律関係分野など、さまざまな機関と連携する必要があります。そう考えると、本学心理学専攻のように、さまざまな研究領域のさまざまな資格を持った教員が密に連帯して全員で教育に取り組める環境にあるということは、大きなメリットではないでしょうか。
もうひとつの大きな特徴は、臨床心理士、学校心理士、臨床発達心理士、認定心理士、医師、精神保健福祉士、専門社会調査士、教員免許など、教員全員がなんらかの資格を持っているということです。全員が何らかの資格を持っていると、例えば実際に資格を取得しようという学生に対して、資格の意義、その職責や職務内容について、あるいは資格の適用範囲など、取得にかかるプロセスなどについて説得力を持って教えることができます。そうした点も、本学心理学専攻の優れた点だと思います。また、施設も充実しています。そもそも人文学部に人間心理学科を開設した時から大学院の設置を念頭に置いて施設が作られているので、かなりいろいろな研究機器、装備、装置が整備されています。臨床心理学系だけではなく基礎の実験実習ができる実験室なども完備されていて、施設・設備についてはおそらく日本でも有数ではないかと思っています。

日髙教授

日髙教授:4年前に人文学部に人間心理学科を作った当時から、心理学のプロフェッショナルを社会に送り出していくことを意識して全体の構成をしているので、非常に実践的・実務的だというのが本学心理学専攻の特徴です。教員も児童相談所に勤めた方や少年鑑別所に勤めた方など外部組織での実務経験ある教員から、ずっと自身の研究を追究してきた教員まで、実にバラエティーに富んでいます。

吉野教授

吉野教授:大学院では、論文を作り上げるということも大切な学習のひとつです。論文を作成する方法論としては、実験や調査、観察などによって導きだされたデータをどのように取り扱い、まとめ上げるかということが重要です。最近では特に統計的な手法が大事になってきていますが、人間心理学科の学生は、基礎的な実験的手法や論文の書き方などもかなりきっちりとトレーニングされています。本学心理学専攻には、そうした学生により高度な知識や技術を施せる環境が整っていると思います。

清水教授:人文学部人間心理学科についてお話ししますと、私は、学生全員が心理学のスペシャリストを目指すということが学部の第一の目的だと考えていません。一般企業の会社員や公務員など、どのような職業に就いても、その仕事の中で生かせるような心理学を教えたいと思っています。心理学を広く勉強して、基礎的なことをみっちり勉強すれば、どんな職業に就いても役に立つと考えているからです。しかし、大学院に関しては、スペシャリストの養成がひとつの目標になるかと思います。

日髙教授:そうですね。スペシャリスト養成ということを考えると、どうしても大学院は欲しい、ということになります。学部だけで完結するということは、おそらく今の高等教育ではあり得ません。大学院の意義を考えたときに、1つはもちろん従来の研究者養成があると思いますが、現在では高度職業専門人を養成することも大学院の使命だと思います。心理学自体が、さきほど清水教授がお話しになられたようにかなり幅が広く、文系的な領域に含まれる分野もありますし、理系的な領域に分類される分野もあります。こうした広範な領域をカバーする学問は、他にはほとんど存在しないのではないでしょうか。

吉野教授:例えば、認知症の方を扱う場合、脳のダメージを調べる際には脳生理学的な側面からのアプローチが必要となりますし、実際の臨床医療の現場では、認知症の方を家族や周りの方たちがどのようにケアすべきかという問題を扱わなくてはなりません。さらに、そうした方たちをケアする施設に関する問題となれば、今度は、社会心理学という領域がカバーすることになります。心理学が関係する問題を扱う際には、非常に幅広い多角的な視点が必要になるということです。そう考えると、本学心理学専攻には、広範な領域の専門家がおりますので、幅広い分野をフォローできる体制が整っていると思います。

日髙教授:修士課程である心理学専攻は、実際に社会で役に立つ専門家を育てたいということがメインですが、さらに上の段階のドクターコースで研究を探求したいという学生には、本学の人間文化学研究科には従来のドクターコースも設置されているので、そこで博士号を取得し研究の道へ進むという選択もあります。

石﨑准教授

石﨑准教授:一般の方からすれば、大学院に新しい心理学系の修士課程が開設されるということのみを聞けば、一見、修士課程で完結するように錯覚される方もおられるかもしれません。しかし、大学院のシステムの中では、研究職を目指す学生は、修士課程修了後に博士課程で心理学の研究を続けることができます。本学でも、今まで通りにマスター(修士)を修めてドクター(博士)を取得し、研究の道に進むことができます。

清水教授:これまでも、卒業生の中には臨床心理士もかなりいます。そうした実績の上に、今回新しい専攻が加わり違った形で大学院教育が展開されるということです。

吉野教授:今回、新しく心理学専攻を開設した理由のひとつに、臨床心理士資格認定協会の認定する臨床心理士第1種指定大学の卒業生でないと、受験資格が与えられなくなったという経緯があります。ここ数年で、臨床心理士の資格取得の条件が変わってきており、それに対応させて、今回大学院を再編成したといったほうがよいかもしれません。本学も、もちろん、心理学専攻の開設で受験資格指定校を目指し、申請しようとしているところです。今までですと、指定校制に移る移行措置の間は、例えば臨床現場で働いている方たちがどこの大学を出ていようと一定の期間働いていれば受験が可能で、資格を取得することができました。そうした移行措置が昨年で完全に消滅してしまったので、今回臨床心理学系という形で、受験資格を取得できる大学院が設置されたということは、本学の強みになると思います。

石﨑准教授:その一方で、当然、専門職として社会に出るのではなくそのままドクターに進んで研究者になる学生もいます。特に心理学系は、そういう研究者を目指す学生も多いと思います。

座談会参加者: 写真左より清水教授、石﨑准教授、日髙教授、吉野教授

心理臨床カウンセリングセンターの役割

来ていただくというだけでなく、積極的に地域へ出て行く機関に

日髙教授:社会貢献という意味では、心理臨床カウンセリングセンターは、直接的に地域社会に貢献する機関になります。本学は、ポートアイランドキャンパスと有瀬キャンパスに分かれているわけですが、この有瀬キャンパスは、当初から地域との結び付きを大切にしています。子育てのことでもよいし、ご本人のことや家族のことでも結構です。カウンセリングセンターはもうすでに稼働していますし、そうしたどんなことにも相談に乗り、直接的に地域の方たちのお役に立とうということで運営しています。まだ始まって数カ月ですが、すでに申し込みがあり、定期的に来ておられる方もおられます。

清水教授:カウンセリングと言いますと、子供の非行問題や嫁姑の問題とか、普通は家族間に関する悩みが多いので、開所される前はそうした相談が多いのではないかと予想していました。しかし、ある保育園の園長先生がお見えになって、園の保育士の方など職員のメンタルヘルスにも心理臨床カウンセリングセンターを利用できないかと相談に来られたのです。園長である自分の立場では職員の悩みなどを直接聞くことにはためらいがあるので、本学のカウンセリングセンターを一度訪ねてみたらというアドバイスならできるのではないかということでした。このように、さまざまな組織体で、人間関係・対人関係の問題などに対する予防的対処の方法のひとつとしてセンターを利用していただける可能性があるということです。

吉野教授:多分、医学もそうだと思いますが、すべては予防だと思います。起こってからの対応ばかりではなく、起こらないためにはどうしたらいいのか。そうした発信の仕方ができるということも、大学の使命としてはとても大事なことです。今、学校の先生たちは大変疲れています。日髙教授は、そうした先生方の心のケアのために職場研修の一環として学校に出向き、リラックス方法などをレクチャーしておられます。研修では、先生方全員が畳の部屋やカーペットの部屋などで寝転び、リラックスできるゆったりした音楽をかけたりしながらお互いマッサージしたりするようなことを実施してもらっています。

清水教授:相談に来る人、相談を受ける人という1対1の関係だけじゃないということですね。そうしたセンター内部での関係だけで展開するようなカウンセリングセンターにはしない、ということです。

石﨑准教授:こうしたことは、臨床活動のかなり重要な活動の一環だと思います。臨床活動の中を狭く区切って見れば、1対1で会って面接するといったことは確かにコアではあると思いますが、もう少し広く活動の範囲を考えれば、さまざまなコーディネートですとか、あるいはそうした人と人とをアレンジすることなども臨床心理研究の活動だと言えると思います。大学自体が、社会全体に対してどういった貢献ができるのかと考えた時、教育機関なので利害関係がなく教育委員会や企業とも連携できるという特質があります。教育機関や企業は、現場で職員や社員の教育を頑張って実施しておられますが、それをどうやって客観視して、次のステップに進むのかということを第三者が考える必要があります。そうした時に、大学がスーパーバイザー的な役割を果たす必要があるのではないかと思います。

フロントライン 一覧