2017年11月 地域と大学が連携しともに考える「場」づくりをin Focus

知の“今”に挑む研究者たち 地域と大学が連携しともに考える「場」づくりを 関谷 次博 Tsugihiro Sekiya 経済学部
知の“今”に挑む研究者たち 地域と大学が連携しともに考える「場」づくりを 関谷 次博 Tsugihiro Sekiya 経済学部

地域交通から考える地域の持続可能性

私は岐阜県の出身で、大学のゼミで経営史担当の恩師との出会いから、地元企業の歴史を研究することを始めました。トラック運輸会社を研究するなかで、鉄道史学会の先生方と出会い、それを通じて、物流という枠組みで、一個別企業の動向だけではなく、企業経営や経済全体との関係について考察するようになりました。 大きな転機となったのは、前任校において、地元バス会社の北恵那交通の社長(当時)から、大正期に創業した前身の北恵那鉄道に関する資料をゆずり受けたことです。鉄道敷設の経緯や鉄道運行、営業報告書に至る膨大な資料でした。そもそも、このような古い資料が保存状態も良く、残っていることはまれなことで、私のような歴史研究者からすると宝の山を発掘したようなものでした。大変貴重な資料を自由に使わせていただけるという幸運に感謝しながら、北恵那鉄道の歴史から見えてくる、当時の地方鉄道の維持・存続を左右した利害関係の仕組みについて明らかにする研究を進めました。

戦前には、各地域に小さな鉄道がたくさん開業しました。北恵那鉄道の場合もそうですが、そうした地方鉄道を作ったのは、資本力のある土地の有力者が多かったのですが、それだけでなく、地域の住民も協力して少しずつ出資したケースもたくさんありました。現在、地方では、利用者の減少によって経営難に陥った鉄道の存廃がよく問題になっています。しかし、そうした問題は今に始まったことではありません。昔は、今よりも、もっと人のいないところに鉄道を敷設したわけですから、運賃収入で維持するというより、地元の自治体や住民が費用を分担しながら維持することも多かったのです。現在では、不採算路線は切るといったように、費用削減の考え方が当然のように捉えられていますが、本当にそうなのでしょうか。高齢化が進む中での不便さや、コミュニティの喪失など、地方公共交通がなくなることによる不利益は想像以上に大きなものがあります。お金がないから事業をやめるのでなく、みんなで費用を分担できる仕組み、その方法を考えることはできないかという問いを立て、鉄道を含めて、今日の地域のサスティナビリティ(持続可能性)を検討していくというのが、私の研究の中心テーマです。

社会と触れ合いながら自分たちの未来を考える

こうして、地域との関わりをもった研究をおこなってきたこともあって、前任校(岐阜県)では、岐阜県土岐市のまち・ひと・しごと創生総合戦略推進会議の座長を務めました。これを契機に、さらに大学と地域が連携して、地域の未来を考える重要性を強く感じるようになりました。市役所の関係職員のほか、地元企業や団体、地元教育機関の教員が有識者という立場から議論をするのですが、地域住民がこうした問題にどれだけ関心をもっているかに甚だ疑問を感じていました。とくにもっと多くの若者たちが、関わるべきであろうと、学生たちをまちづくりに参加させ、実践的に学ばせようと考えるようになりました。それは、神戸学院大学に着任してからの、私の行動につながっています。

三木市役所、神戸電鉄の方々を大学に招いて、学生による神戸電鉄イベントの研究発表会を行ったのもその一つです。ゼミ生たちがグループに分かれ、実際に神戸電鉄粟生線沿線を散策し、地元住民、自治体、神戸電鉄の方々に話を聞いて、地域住民が参加しやすいイベントを企画し、提案発表しました。学生の提案は、電車の装飾や車内でのハロウィンイベント、三木市の祭りやフリーマーケットとのコラボなど多岐に渡りました。発表を聞いた方々からは、現地調査の方法、イベント開催時の評価法、計画の具体性などさまざまな指摘をいただきました。自らが調査し、考えた案に対して、企業経営や自治体運営の立場から、直接意見が聞けたとあって、通常の授業では得られない貴重な機会になりました。

その他にも、淡路島でゼミ合宿をおこないました。学生たちは、伝統産業である線香づくりを地元の小学生とともに体験したり、淡路島の活性化について、淡路市役所の方々を前に自分たちの意見を積極的に発信したりしました。また、NPO法人ママの働き方応援隊という「赤ちゃん先生クラス」を運営する団体と、私が神戸電鉄を調査する中で知り合いました。「赤ちゃん先生クラス」は、教育機関を中心におこなう、いわば体験型の事前育児教育です。それを本学で開催し、ゼミ生に体験してもらいました。育児の大変さを知るのも、こうした負担をどう分担するかを考えることにつながります。まさしく、私の研究関心でもあります。経済の勉強は、社会との関わりのなかにあります。地域のことは、足を運び、汗をかいて現場を見て知ることが大切だと考えています。こうしたフィールドワークを通して、学生たちの気づく力、考える力が伸びてきていると感じます。

今年の11月に、神戸電鉄粟生線の存廃問題など、まちづくりと鉄道との関係を共通論題とした鉄道史学会全国大会を有瀬キャンパスで開催しました。今後も、地域や社会とのつながりの中で学生に多くのことを学んでもらうと同時に、地域に暮らすさまざまな人がともに考える「場」をどのように作れば良いかを考えていきます。

Focus on lab
―研究室レポート―

昨年12月には、関谷ゼミの主催で、アウトレット支配人との意見交換会を開催しました。ゼミの学生たちは、アウトレットをはじめとする小売業の現状や売上・集客アップの戦略などを学習。これに先立って神戸三田プレミアム・アウトレットを見学し、見聞きした知識を元に自分たちの集客策も語りました。昨年度の後期から始まった関谷ゼミは、ようやく1年が経過しました。学生たちは、アウトレットや淡路島、神戸電鉄など、教室を飛び出し、現場でさまざまな経験を積み重ねています。「価値ある情報とは『みんなが知らない情報』。自分で行って見聞きすることの重要性を、フィールドワークを積み重ねながら体感してくれているようです」(関谷教授) とのこと。

プロフィール

1995年 愛知学院大学 経営学部 卒業
1997年 愛知学院大学大学院 経営学研究科 博士前期課程 修了
2004年 大阪大学大学院 経済学研究科 博士後期課程 修了
博士(経済学)〔2004年4月(大阪大学)〕
2003年~2004年 大阪大学大学院 経済学研究科 助手
2006年~ 中京学院大学 経営学部 専任講師
2011年~ 中京学院大学 経営学部 准教授
2013年~ 中京学院大学 経営学部 教授
2016年~ 神戸学院大学 経済学部 教授

主な研究課題(現在進行中のもの)

  • 交通の変化と商業の変化
  • 地域商業における大規模小売店の影響化
  • 低生産性産業の維持・存続
  • 子育て環境の整備と定住化策の連関
  • 鉄道外部効果の費用分担への方法
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